『結局、お前たちは付き合ってるのか。』
かすががいきなりそんなこと言うもんだから、私は腹がよじれるほど大爆笑した。
「あはははは…ちょ、まっ、苦しい…!うへへへへ…ふふ、あっはっはぁ!!」
しかし、おかしいことを言われたものだ。
久しぶりに電話をかけてきたかすがに、私はひたすら竹中さんの愚痴をこぼしていただけなのに。
『大丈夫か……?』
私の笑いがあんまり止まらないのでかすがが心配してきた。
笑い死にで死ぬなら、今死ねるかもしんない。
「大丈夫だけどね、なんかもう私、あんた大好き。く…ははは!あーもう、お腹痛い助けて。」
『意味が分からん。』
「ふふ、まぁ良いけどさ、ねぇ、また今度遊びに行こうよ。」
『私は構わないが、お前、休みは取れるのか。』
「あー、それは頑張ってみる。あ、」
携帯を後ろから取られた。
振り返れば、まぁ、この店に私以外の人間はあと一人しかいない訳で。
その人が先程まではかなり良かったご機嫌が、随分と傾いているもんだから私は少し驚いた。
「返して下さい。」
「君はいつまで昼休みでいるつもりだい。」
携帯は我が手には戻らずに、電源ボタンが押された。
「何で勝手に切ってんですか!!!」
「昼休みは終わってるんだよ、名くん。早く仕事に戻りたまえ。」
「それは悪かったですけど、切ることないでしょ。」
「君が果たして僕に文句を言える立場なのかどうかよく考えると良いよ。」
そう言って、竹中さんは私の携帯をごみ箱に放り投げて、厨房に戻って行った。あの野郎…!!
それにしても、どうしていきなり機嫌を損ねてしまったんだろうか。
どうせ豊臣さん絡みだろうな。まったく、どうして私にとばっちりがくるんだ。
携帯を救出した私は、いやいや竹中さんの下ごしらえの準備を手伝う為に厨房に向かった。
「………。」
「………。」
え、なんか空気重たい!そんなに怒り狂ってるのか竹中さん。
いつにない雰囲気に私のピーラーを持つ手が震える。
「……じゃがいもと大して変わらない指だけど切れば血が出るよ。」
「誰がじゃがいもと変わらない指だ。」
なんだいつもと変わらない腹立つ竹中さんだ。
「さっきの電話、」
「電話?あぁ、それをそんなに怒ってたんですか?」
「誰と話してたんだい…?」
「誰って、友達ですけど。
ほら竹中さん覚えてませんか一度食べに来てくれた、金髪の美人と頭オレンジの奴と茶髪の煩い子。」
「僕は厨房から出ないよ。」
「いや、あの時は私の友達なら自分で料理持って行くって聞かなくて、くっそ忙しい時間に厨房抜けたじゃないですか。」
ちなみに根に持ってます。
竹中さんは少し考えるようなそぶりを見せて、あぁと声をあげた。
「そのうちの誰だい?」
「かすがですけど。」
「かすが…って誰。」
「金髪美人です。」
「そう……。」
それっきり竹中さんは完全にこの話題に興味を無くしたらしく、黙々と下準備を続けていた。
機嫌もどうやら直ったらしい。
「そういや竹中さんそのうち休みたいです。」
「理由は?」
「遊びに行きます。」
「君は社会人としての自覚が無いのかい。」
「労働基準法を無視しまくってる人に言われたくないです。」
レストラン・タケナカへようこそ!
「そういやかすがが私達が付き合ってるのかと思ったらしいですよ。大爆笑ですよね。」
「……さっきの大爆笑は?」
「そのことです。ぶは!無い無い。うははは…!!」
「唾を材料に飛ばしたら命は無いものと思いたまえ。」
「な、何か怒ってません?うひひ…」
「君の笑い方が奇妙で不愉快だ。」
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