「すみません、本日はお休みさせて頂いてるんです。」
『明日でも我は構わぬが。』
「いや、明日も多分…竹中さんが体調くぶっ!!!!!!!」
『名?』
「やぁ、どうしたんだい秀吉。」
何処かの御偉い社長さんだってのに豊臣さんはいつも予約を電話で直々にいれてくる。
慶次さん同様に豊臣さんと竹中さんは旧知の仲らしい。
しかも、慶次さんとは違って竹中さんは豊臣さんとは随分仲が良いみたいだ。
だからなのか、竹中さんは体を壊しても豊臣さんには何でもないと言い張る。
多分、豊臣さんには、ばれてるとは思うけど。
それにしても心配をかけたくないのは分かるけども、電話で暴露しようとした私の頭を木べらで殴ることは無いと思う。
「分かってるさ、今日は休むよ………、明日には治るよ。君の心配には及ばないよ。あぁ、じゃあね。」
店の雰囲気にと合わせられて置かれている西洋のダイアル式の電話がガチャンと置かれた。
寝巻きにカーディガンな竹中さんの足元は覚束ない。
「竹中さん、熱は計りました?」
「体温計が見付からない。」
「朝ごはんは?」
「作る気が起きなくてね。」
「竹中さん?」
「……何だい?」
どうにも目がとろんとしている。
私から見て、熱があるのは間違いない。
何で一介の従業員がオーナーの看病までしなくてはならないのか甚だ疑問だが、こんな病人を一人にして帰るのは薄情だろう。
一人だとまた何をしでかすか分からない。
私が今日の朝に来た時は玄関先で倒れていたものだから心臓が飛び上がった。
「とりあえず、お粥作りますから寝てて下さい。」
「僕に君が作ったものを食べろって言うのかい?」
はっと鼻で笑われた。
病人でも何でも竹中さんは竹中さんだ。
小憎たらしさは変わらない。
しかし相手は病人。ここで見放すのは大人げなさすぎる。
「ご飯食べなきゃ薬も飲めないでしょう?」
「……君はたまに母親みたいな口を利くね。」
ため息をついた竹中さんはふらふらと二階の自室に向かって行った。
小さく豚の飯でも仕方ないとか聞こえたのは私の幻聴だ。
…相手は病人。心は広くもとう。気を取り直して、米を研ぐ。
普通なら昨日の残りのご飯とか使えば良いのだが、レストランのために残りが無い。
廃棄用のライスが残っていても、竹中さんが晩御飯にとまかないを作ってくれるので、私が食べてしまうのだ。
あんな憎たらしい人でもオーナーシェフなので、ご飯はすごく美味しいから箸も進む。
よって、残りのライスは私の腹に収まるという寸法である。
「名ちゃん、入るよー。」
「慶次さん?」
玄関の方から声が聞こえて、私が行かなかったら、慶次さんはずんずんと中に入ってきた。
「あれ、今日は休み?」
「はい、竹中さんが熱出したみたいで…。」
「じゃあ、また半兵衛に付きっきりかい?」
慶次さんがにこりと笑う。ああ、これで女の子を落とすんですね。
私の周りはタチの悪いイケメンばっかりだ。
「付きっきりまではしませんけどね…あの人、放って置くと何するか分からないんで。」
一人なら間違いなく、その辺でぶっ倒れてるだろう。下手すりゃ死にそうだ。
竹中さんは厨房にいるのが生活の八割のくせに、絶対に流行り風邪とか貰ってくる。
「そっかー!!」
「何でそんなに嬉しそうなんですか。今日は何も出しませんよ。」
「そういうんじゃ無いって。ま、俺に手伝えることがあったら言いなよ。」
慶次さんの大きい手が私の頭を軽く叩いた。
「まぁ、今のところは大丈夫です。ありがとうございます。」
なんだかんだで世話好きな慶次さんには感謝してるので頭は下げておく。
あぁ、鍋が噴きそうだ。慌てて、火を止める。
蓋を開けたらむわっと蒸気が顔にかかる。
「飯?」
「お粥です。」
慶次さんが後ろから覗き込んで来た。
私が答えたらちょっと吃驚したみたいだ。
「名ちゃん料理出来たんだ?」
「どういう意味ですか。
お粥くらい誰でも作れるでしょう。言ったら水入れすぎたびちゃびちゃのご飯ですよ。」
「ほ、ほらまぁ、半兵衛が喜べばいいな!」
にこにこと愛想よく笑う慶次さんは有り得ないことを言うから、私の機嫌はますます急降下だ。
……私なんで頼まれもしないのに、竹中さんの世話してんだろ。
「慶次さん慶次さん、」
「な、何?怒ってる?」
「怒ってます。私もう帰るんで、代わりに竹中さんに付いててあげて下さい。」
「俺が?」
「さっき協力してくれるって言ったじゃないですか。だいたい、私は竹中さんの友達じゃなけりゃ彼女でも無いんで、此処までサービス残業する必要無いんですよ。」
私がそう言い切ると慶次さんは困ったと顔に書いて、頬をかいた。
竹中さんの部屋に慶次さんが入ろうものなら、多分このお粥は意味成さないだろう。
「お願いしますね。それじゃあ。」
私はお粥の味付けもしないまま、鞄を掴んで店を出た。
レストラン・タケナカへようこそ!
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