頭が死んだ。

そう告げても、旦那は泣かなかった。

「坊ちゃん、何それ?」

「墓だ。」

旦那が庭先にたくさんの土を掘り返しては小さな山にし、またその隣に小さな山を作る。
そんな作業を延々としているから、弁丸様は土弄りが好きなのかなんて噂されるようにまでなった。
連中は頭が死んだことなんて、これっぽっちも気にかけていない。
もしかすると忘れているのかもしれなかった。

「もしかして、頭の……?」

「うむ、名が死んだものはこうしてうめると言っていた。」

忍は死体を残してはならない。
だから頭は俺に烏を飛ばしたし、俺が密葬した。
旦那は勿論このことを知らない。

延々と旦那が作りつづけた墓は今でもその庭先にある。

「佐助。」

「はいよ。」

旦那は立派になった。
もう泣かないし、忍が突然現れても驚いたりしない。
元服して、戦にも出るようになった。
人の命を奪って、背負って生きていけるくらい強く立派な武将になった。
今の旦那を頭が見たら何て言うだろうか。
頭と言えば俺は忍頭になった。

「花を摘んで来てくれ。」

旦那がそう言うのは毎年この日だった。

「了解。」

忍頭が花摘みに出かけるなんて、何だか情けない話だよね、ホント。
別に嫌じゃないよ、本当だって。

「俺は未熟だった。」

「十三年ずっと聞いてるよ。」

いつも欝陶しいくらい熱いくせに、この日は欝陶しいくらい静かで落ち込む。
旦那が自分を許せる日がくるのか、どうか……、きっと頭が言ったら聞くんだろうな。
旦那は俺様の言うことなんか聞きやしないんだから。

「もう十三年だよ、旦那。」

「うむ。」

「胸張れるくらいにはなったんじゃないの?」

「……そんなこと出来る訳無いだろう。」

旦那に甘い頭なら絶対許してくれるのに。
本当に損な性格してるよ旦那。
悲しいくらいの青い空の下で、俺様が摘んできた白い花がたくさんの山の前で笑っていた。

「馬鹿だよねぇ、俺様たちってさ。」





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