肉の裂ける音と血の臭い、そして狂いそうなこの赤。
私がたくさん生み出してきた亡きがらたち。
もし弁丸様が、私のそんな姿を見たら泣いてしまうだろうか。
話で聞くのと、見るのとでは雲泥の差がある。
「頭、ねずみが一匹侵入したみたいです。」
「そう。駆除は日が暮れる前にね、佐助。」
「りょーかい。」
佐助が私の後ろから姿を消した。
私は立ち上がって弁丸様の元へ向かう。
万が一、ねずみの狙いが弁丸様だったとしたらそれは最悪の事態だ。
「弁丸様。」
「名?」
ことんと首を傾げた弁丸様が私を迎えてくれた。
私は内心ほっと息をつく。
「今日は風が冷とうございますゆえ、窓は開けないで下さいね。」
「わかった。」
「……弁丸様、名から離れないでくださいませ。」
素直に微笑んだ弁丸様に和んでいる場合では無いらしい。
ねずみが天井裏を這っているようだ。
よく分かっていないようだが、弁丸様がとととっと私に寄って来た。
私は苦無を構えて、投げた。
勢いよく降りてきたのは見慣れぬ忍。
やはり弁丸様が狙いか。
「一応、聞いてやる。誰に言われた。」
「………。」
苦無を投げながら、聞いてみたが返事が有るはずもなく。
仕方ない。此処まで侵入されてしまってはもう始末するしか無いだろう。
私が短刀を手に駆け出した。
手早く仕留めるのにはこれが早い。
それに力の差は歴然としていた、私の方が強い。
肉が切れる音と部屋中に血飛沫が舞うのはほとんど同時だった。
「弁丸様、ご無事ですか。」
息が荒い。目を見開いてそのままだ。
涙が一筋、弁丸様の頬を伝った。
「生きています。」
「まっ、まことか…?」
「はい。」
これから死ぬより苦しい拷問にかけるなんてことは弁丸様はまだ知らなくていい。
「名は、人を殺したことがあるのか…?」
恐怖を孕んだ涙声に私の胸がざわめいた。
「はい、名は忍ですゆえに。」
弁丸様が少し躊躇いがちに私に抱き着いた。
着物が血で汚れてしまうからと引き離すべきだったのだが、震える主を突き放すことは出来なかった。
今、弁丸様が何を思ってこんな行動に出ているのか私には分からない。
秘密を隠して月は輝く
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