私が特別だと知ったのは3歳になった時だった。

「お狐さまは私以外には見えないの?」

賽銭箱の上で片膝を立てるお狐さまはゆたりと煙をくゆらせながら、ふんと鼻を鳴らした。

「愚か者。我のような存在がおいそれと貴様ら人間程度に見えてたまるか。」

お狐さまは私に向かって煙を吐き出した。
お狐さまが吸うそれは、人間の吸うそれとは違いいつも甘い香りがした。幼い私は甘いその香りが大好きだったのだ。

「私が見えるのはどうして?」

「貴様が祖母の血を色濃く受け継いだからだろう。」

本当に、とお狐さまは言葉を切って、私を見ない瞳を細めた。

「私が見えたらだめ?」

お狐さまの返事がどうだったか私は知らない。
母が私を迎えに来たからだ。最後に一度お狐さまを見上げると、早くいけと払うような仕草をして社の中へ帰っていってしまった。
私はまたねと呟いて、母の元へ帰った。
それ以降、私とお狐さまが会うことは二度となかった。
この年になっても私がお狐さまの存在を疑ったことはない。彼は確かにそこにいる。

「お狐様。私、この家を出ていくことになったわ。」

高校を卒業して、都会の大学へ進学が決まった時に近所の挨拶を済ませた私はあの社の前に足を向けた。
お狐様は絶対にここにいる。小さな私の妄想ではない。確かに、存在した。
ここにくればいつでも、あの甘い香りが私を迎える。

「お狐様はここからあんまり離れることが出来ないんでしょう?私知ってるのよ。たまにお狐様が私の様子を伺ってたことぐらい。」

時折、あの香りが私の元に届くのだ。
ああ、お狐様が私を見ているとしみじみと思う。いつでも、私が悩んでいる時や、臥せっている時に限ってその香りは現れた。
もう声も姿も朧気にしか私の記憶には残っていないけれど、あの香りだけは忘れない。

「お狐様が私のことを心配して、姿を隠すようになったのはわかってるし、出てきてとは言わないけど、元気でいてね。」

私の大切な守り神様。




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さいきんめっきり書いていなかったので、勢いで書いてみましたけどナンダカナー!
妖怪パロは前々から書きたくて色々練っていたのでまたまとめてみたいと思います。
妖怪好きー!20130102

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