補習というものがこの世から滅びれば良い。私がそう文句を言うと、馬鹿は馬鹿しか言えないから困ったもんだと竹中先生が言った。
生徒に対してその言い方はどうだろう。もし私のメンタルが鈴木君のごとく弱いものだったなら今頃胃潰瘍で入院ものだ。
私がじとりと睨むと、竹中先生はくすりと笑った。
「君が卒業式に他のクラスメートたちと出たくないっていうなら別に構わないんだよ。何年でもこの学校に通うと良い。」
鬼…鬼がおわすぞ…!!!
私は慌てて、白紙のプリントに向かった。しかし、今まで白紙だったプリントがいきなり埋まるはずがない。
というか、何が書いているのかすら分からない。
「先生…難易度高くないですか…。」
「高校の理科なんて暗記科目だよ。計算問題ならまだしも基礎的な薬品の名前すら覚えていないからそうなるんだ。」
「名前が難しい…。」
「馬鹿は休み休み言いたまえ。今日はそのプリントを完全に理解するまでは帰れないよ。」
呆れたようにため息を吐かれた。酷い。私帰りたい。
「先生、今日は金曜日だよ。」
「そうだね。そこは透明になるんだよ。」
プリントの問一を指しながら先生は言った。白も透明も変わらないじゃん!先生細かい!
「土曜日のために早く寝ないとダメなんだよ、私。」
「寝る暇を惜しんで勉強して欲しいものだね。」
「肌に悪い。」
「それより君の成績の悪さについて悩んで欲しいものだね。そこなんでいきなり酸素が抜けたの?化学記号も書けないのか君は、」
問三を指差して先生は馬鹿にした。
ちょっと忘れてただけだもん…。これくらいのこと見逃せしてよ!
シャーペンでOを書き足すと、芯が折れた。カチカチと芯を出してたら、バイブの音が鳴る。
私のじゃない。先生のだ。
「もしもし?」
私に許可を得ることもなく、その場を離れることもなく竹中先生は電話に出た。
その間にちらりと鞄に入ってる自分の携帯を見るとメールを知らせる光がちかちか見えた。
あー、やっぱり今日は補習なんか受けるんじゃなかった。
「名くん。」
いきなり、下の名前を呼ばれて私は驚いた。いつも名字で呼ぶじゃん…先生。
「は、い…?」
「今日はお開きにしてあげる。その代わり月曜日にはそのプリントを完全に理解してくること。テストするからね。」
「マジで?やった!」
月曜日のテストでもし一問でも間違ったら僕に土下座して単位貰ってね。とにこやかに言って去っていった竹中先生の言葉なんか耳にも入れずに、意気揚々と教科書を鞄に入れて、携帯を開いた。
予想通りの人物からの不在着信にうきうきしながら電話をかける。
「あれー?」
しかし、出ない。
車乗ってるのかな…?ちょっとがっかりしながら、携帯を閉じようとするとやっと繋がった。
「もしもしー?携帯忘れて帰ったみたいだからさぁ、明日にでも取りに来いって言っといてくれない?」
聞いたことのない女の人の声がした。
誰?とも聞けずに分かりましたと言ったら、良い子〜と誉められた。
この人がなんでちかちゃんが忘れた携帯持ってるんだろう…。
「お嬢ちゃん、今どこにいるの?」
「学校…。」
「ん、そっか。高校生だもんねぇ〜。ん?何だね?やだちょ、離せお前!」
「あの…?」
「おい、」
いきなり声が低くなった。
多分ガサゴソしてたから、人が代わったんだと理解する。この人も誰なんだろう?
「聞こえてるのか。返事をしろ。」
「は、はい…。」
怖い!受話器の遠くで、そんな言い方すんなよ〜と聞こえる。多分さっきの女の人だ。
「竹中の生徒だな?」
「はい…。」
先生の知り合いなのか、この人。
また遠くでソカベの彼女って言ってやれよ〜と聞こえる。
そうだ。すっかり忘れていたが、この携帯はちかちゃんのだ。
「ちかちゃん何処にいるんですか…?」
「ちかちゃん…?」
「元親。」
ちかちゃんだってうひひ!あいつ女子高生捕まえて何してんの?と笑い声混じりで聞こえた。この人声大きいな!
「おい。」
今度は聞き覚えのある声が、私を呼んだ。
後ろを振り返るとちかちゃんが寒そうに立ってた。
「ちかちゃん!!」
わー!とタックルしたけど、はいはいと受け止めたちかちゃんは私の手から携帯を取り上げた。
「どうせ馬鹿が呑んだくれてんだろ。」
声はあまり聞こえないが、多分男の人が喋ったんだと思う。
女の人がうちの子が馬鹿なわけ無いだろ!!ちかちゃんよぉ!!!と叫んでるのが聞こえた。
「漫才はよそでしてくれや。切るぞ。あん?携帯は明日取りに行くからよぉ。」
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確か竹中と毛利の話もお題にそって書くつもりでした。無理でした0301