目を開ければ白い天井が目に入った。
此処はどこだろうと鈍る頭でぼんやり考えながら、体を起こそうとすれば背中に痛みが走った。
何だこれ、意味が分からない。
驚いた私はひとまず、動かないでいることにした。
そして、私はどうやら保健室にいるらしい。この消毒液の匂いや見覚えのあるカーテンは間違いなく学校の保健室のものだ。
いや、でも何で私は保健室にいるんだろう?そもそも私は何でベッドで寝かされてるんだ。授業はどうした。
カーテンが引かれる音がして首だけで横を見る。
保健室の先生が大丈夫?と私に尋ねた。私は背中が痛いですと答えてから、少し覚醒した頭で思い出した。私、階段から落ちたんだった。
体が浮いて、背中から落ちた覚えはある。そこまでは私は意識があったのだ。



「あ……、」

「先生が車出してあげるわ。ご両親に連絡つかなくて。」

「すみません。」

「良いのよ。着替えてくるわ。」



先生は笑って、保健室を出て行った。
私は痛みを堪えて起き上がった。
我慢出来ない程度じゃないし、スカートがしわになったら嫌だ、多分もう遅いけど。


「起きれるのか。」



私が声に驚いて、カーテンを見る。
カーテンに半分隠れた男子が私を凝視しながら、そう尋ねた。
私が返事しないまま彼を見返すと、カーテンが開かれて彼は私の前に姿を現した。
ああ、なんてことだろう。彼を私は知っている。



「だいじょうぶ…。」



日本人形みたいな顔に華奢な体は、彼の母親を思い起こさせた。
表情がないところまでそっくりとは、驚いたものだ。



「氏と言ったか。」

「う、ん。」



彼が何か言う度に暴れまわる心臓が怖い。
背中の痛みなんかより全身を血が駆け巡るのを止めて欲しい。もしくは、彼を早く私の目の届かないところへ消して欲しい。
彼を見るのは辛い。



「先生なら、どっか行っちゃったよ。」

「それがどうした…?」

「先生に用事があるんじゃないの?」

「何故、我が。」



意味が分からないと向けられた視線は冷たいものだった。
きっと私は恐れている。



「ひとつ答えろ。」



威圧的に彼は言った。



「何故、我から逃げようとした?」



全ての始まりは貴方と私が生まれたことにあると言ってしまえば、彼は一体どんな顔をするだろう。
 結ばれない恋だった。
でも、それを全てを捩曲げて生まれ堕ちた私達は、母に愛されこうして再び出会うはめになってしまった。
不潔で無秩序な汚れた関係だ。
私は何よりそれを憎む。
私はああはならない。誰がなりたいと願うものか。



「貴方の言ってる意味が分かんない。」



私が彼の問いにそう返事すると、彼は明らかに不愉快を顔で表した。
そんな顔をされても痛くも痒くもない。



「……それで言い逃れたつもりか。」

「私も聞いて良い?」



殊更に眉間のシワを深くして、彼は私を睨んだ。



「ご両親はお元気?」



彼は是とも否とも答えず沈黙を守った。
たいした内容じゃないんだから、そんなに気を張らなくてもいいのに。
警戒心が人一倍強いらしい彼は、その場から動かず、何も話さず、ただ美しいその顔をこちらに向けているのだ。
本当にお人形さんにでも、なってしまったかのようだ。



「お待たせ。あら?お見舞いに来たの?毛利くん。」



私たちの沈黙を破ったのは先生だった。
毛利くん、と呼ばれた彼は私をもう一度だけ睨むと黙ったまま保健室を出て行った。



「友達を探しに来たみたいですよ。」

「そうなの…?氏さん、立てる?行きましょうか。」

「はい。」



私はゆっくり立ち上がってズキズキ痛む背中を気遣いながら、先生のあとに続いた。

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なかなか欝展開な毛利でした^p^読後が気持ち悪くなるような話を目指してたんですが、なかなか難しいもんですね0601
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