私が知る伊達政宗という男は、気味が悪いほどよく出来た人間だった。
誰に聞いても人柄も良く、何でも出来る容姿端麗ときたもんだから、私としてはひとつどころか欠点だらけの幼なじみの方が馴染みやすく可愛いと思う。





「なんか星を零したみたいな景色。」





我ながら究極の乙女発言だなと思いながら、たまたま隣に居合わせた伊達くんにそう言ってみた。
今日は修学旅行である。
伊達くんは嫌な顔ひとつせずに、そりゃ随分壮大だなと私に言った。
あの嫌な幼なじみならたかだか電気と天然の星を一緒にするなと私に言う。間違いない。





「アンタは星が好きなのか?」


「まぁ、好きっちゃ好きかなあ…。」





伊達くんと挨拶以外で言葉を交わしたのは実はこれが初めてである。
いつもは賑やかな集団に囲まれて楽しそうにしている伊達くんが、何故こんな人気の無い展望台にいるんだろうとぼんやり考えながら、人々の生活の灯りを遥か上空から見下ろした。





「アンタ、毛利と仲良いんだろ?」


「まあ…、幼なじみだから。」





伊達くんは私と会話をする気がどうやらあるらしい。
手摺りに肘をついて、私と同じく下界を見下ろしていた。





「みんな、下のお土産屋さんに行ってるんじゃないの?」


「だろうな。」


「お土産買わないの?」


「あぁ…、わざわざ買うようなモンねぇだろ。」


「ふーん。」


「アンタは良いのか?」


「私はご当地カエルくんを買ったから。人混み苦手だし。」


「俺も似たようなもんだ。」


「へえ。」





毎日あれだけの人に囲まれながら、人混みが苦手なのか。
それはかわいそうだな。伊達くん。





「修学旅行楽しい?」


「まだ初日だろ。」


「でも、あとホテル行ってお風呂入って寝るだけだよ。」


「旅行の醍醐味は夜だろ。」


「まーね。」





私はあははと笑い、遠くの光がひとつ増えたのを確認した。





「おい。」





新しい声がして私は伊達くん越しにそっちを向いた。
少し嬉しそうな顔をした我が幼なじみが立っていた。





「なりー、何買ったの?」


「……梅干し。」


「なんで北海道で梅干し?」


「旨かったからだ。」


「試食あったんだ。私も食べに行こうかなー…。」


「もう下りるぞ。」


「あ、そなの?」





きっと私を呼びにきてくれたのだろう。
私はガラス張りの壁から離れて、元就の方へ歩き出した。
伊達くんも来るだろうと振り返ったら、少し驚いたような顔をした伊達くんがそこにいた。





「どうかした…?」


「いや…。」


「そう?下りようか。」


「あぁ。」





伊達くんはいつものように静かに笑いながら、私に同意した。

三人で下の階に下りれば、伊達くんはたちまち人に囲まれ、何処にいたのかと質問攻めにあっていた。





「お前が人といるのは珍しいな。」


「まるで私が友達いないみたいじゃない。」


「そこまで言っておらぬ。」


「そういや長曾我部は?」


「…何故、我に聞く。」


「いつも一緒にいるじゃんか。」


「一緒になどおらぬ。」





ふんと元就が私から顔を背けたところで、先生の下りるぞという声が聞こえた。
はいはいと私が荷物を肩にかけ直して、先生が誘導する方へ足を向かわせた。

ぎゅうぎゅうとロープウェイに詰め込まれ、私はゆるゆると近くなってきた地面にため息をついた。





「ホテル、高い部屋だと良いなあ…。」





私の呟きは誰にも届くことなく、ロープウェイの着地音に掻き消された。




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リアルな文章に憧れて…もはや夢としてはなんの面白みも無いです。わーお^^^1113
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