怒った女の子は怖かった。
私を口汚く罵って、お前、本当はあの人が好きなんだろうと泣き叫んだ。
女の子ってのは繊細で傷付きやすくて壊れ物だなんて思うのは男の妄想の産物である。いや、今時そんな妄想する奴もなかなかいないか。
女の子は平素から色んなものを隠して生きている。良いものも、悪いものもだ。
でも、女の子の心はとても小さいものである。非常に残念だが。
だから、すぐに感情を溢れ出させてしまうのだろう。隠すことが本当は苦手なのだ。

まあ、それが全ての女の子に当て嵌まるかと聞かれれば否なのだが。
少なくとも私の目の前にいる彼女は間違いなく、その部類であろう。

聞いてるのと喚いた女の子越しに、よく見知った人を見付けた。
ああ、これはまずい。ていうかかわいそうだ。





「ちょっと落ち着いて話しましょう…?
あんまり大きな声を出すと響きますから。ここ。」





暗に今すぐ口を閉じろと言ってみたのだが、火に油だったらしい。
多分私が言葉を発するってのがもう駄目なんだろうな。
私、一応彼女を思って言ってあげたんだけど。

とうとう彼女は私に向かって振りかぶった。





「そこまでにしてあげてくれないか。」





彼女の手を後ろから掴んで、竹中さんは言った。
これで私が殴られたら辞めますからねと言った甲斐が少しあったのだろうか。多分無いな。
彼女は涙でボロボロになった目を見開いて、竹中さんを見上げた。
可愛い子なんだよ、本当に。
でも今の状態は残念だけど、あまり褒めれる部分は少ない。





「彼女が例の子だね?」


「見ての通りですよ。」





竹中さんの問いに答えてやれば、竹中さんはため息をついた。
ため息つきたいのはこっちだ。
彼女はというと小さく震えていた。かわいそうに。





「ねぇ、フラれたからって名くんに当たるのは間違いじゃないのかい?」





この状況が容易に想定出来たのに私をここに駆り出したのは誰だ。
まるで諭すような口調で彼女に説くが、これは私に対する言い訳だ。
いやしかし、ふざけんな。なんで私が罵声浴びされなきゃいけないんだ竹中この野郎。と叫びたいのは山々だが、今はそれどころじゃない。

彼女は竹中さんの手を振り払うと、私を睨み付けて走り去って行った。
あれ、憧れのハンベエサンに何も言わないのか。
まあ、あれだけ醜態さらしといて、さも私が悪いかのような振る舞いをするような子だ。羞恥に堪えられなかったのかな。
天は二物を与えないとはよく言ったものだ。顔は可愛いのに。





「行っちゃいましたね。可愛い子だったでしょう?」





私の言葉にはノーコメントで、竹中さんは裏口から厨房へと戻って行こうとする。





「さて、私に貸しひとつですよ、竹中さん。」


「君は殴られなかっただろう?プラマイゼロだよ。」





私は断固認めない。
しかし、もう遊んでる暇は無いようだ。もうディナータイムが始まるじゃないか。





「あんな厄介事、もうごめんですよ。」


「次に同じような事があったら君から全部断ってくれて構わないよ。」


「嫌ですよ。怨まれるの私じゃないですか。」


「その時は助けてあげるよ。」


「何で仕方ないからやってあげるみたいな感じに持って行こうとしてるんですか。元は誰が悪いと思ってんですか。」


「さて、無駄口を叩く暇があるなら早く掃除したまえ。」





竹中さんは私に箒を投げ付けて、厨房に帰って行った。
あいつマジふざけてんな…!


** ** **

みたいな話をタケナカ4の後編に付け足そうかどうか悩んでいたので書いてみたけど、女の子がかわいそう過ぎるので止めました。
タケナカ書いてて超楽しいです。はんべ可愛いよはんべ1018
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