お前さえ嫁いでくれれば家は安泰なのだと言ったのはお祖父様だ。
父上は先の戦で死んでしまった。
母上は泣きながら、お祖父様に従えと言う。
こうして、私は父上を討ったと言われる彼の人へ嫁入りすることになったのだった。
父上が死んで悲しいとか、彼の人が憎いとは思わない。
父上は私に見向きもしなかったし、思い出なんてものも無い。
母上は正室ではあったのだけれど、あの側室より愛されていたとはどうも思えない。
つまり、女である私は父上や重臣たちにとって特に必要な存在では無いのだと気付いたのは私が十になった時だ。
「名にございます。」
角隠しが落ちるのでは無いかと心配しながら、私はゆっくり頭を下げた。
生まれて初めてで、最後の白無垢は私にはあまり似合わない。
紅や白粉だって自分で見ても悲しくなるくらい私には似合わなかった。
私を娶るなんて可哀相なお方。
「頭を上げなさい。」
「はい。」
初めてお目にかかった私の旦那様。
髪が長い。白くて、光が反射している。
爬虫類のような目を見て、この人が私を嫌っているとすぐに分かった。
悲しい、なんて思わない。
「明智光秀です。」
「恐れ多くも存じ上げておりまする。」
「そうですか。」
そう言った光秀様は立ち上がって、部屋から出て行ってしまった。
予想外過ぎて、周りにいた家臣がざわめくがそれはすぐに収まり、溜め息に変わった。
「姫、こちらへ。」
家臣の一人が私に立つように促した。
不安を抱えながら、私は彼について、部屋を出た。
「私は斎藤利三と申します。」
「よろしくお願いします。利三殿。」
「はい…、状況の説明をさせていただきます。」
「是非に。」
私達は歩きながら、会話を交わす。
利三殿はゆっくり歩いてくれているが、私はついて行くのに必死だ。
「姫には非常に申し訳ないのですが……、光秀様は今回の祝言をあまりよく思っておられません。」
「そのようですね。」
「我々で説得はしてみますが、とても自由を好むお方ですので……。」
「分かりました。」
私が案外すぐに了解したことに利三殿は驚いた様だった。
私は愛想笑いを顔に貼付けて、利三殿を見上げる。
「ご理解が早い姫で嬉しく思います。」
「政の為の祝言ですよ。」
「……そうですね。」
申し訳なさそうに利三殿は頭を下げた。
それから双方黙ったまま廊下を進み、ひとつの部屋の前で止まった。
「こちらが姫のお部屋です。
女中が参りますのでしばしお待ちを。」
「ありがとうござます。」
私は頭を下げて部屋に入った。
美しい襖に新しい藺草の匂い、そして私の嫁入り道具たち。
襖が閉まるのを確認してから、私はその場で座り込んだ。
緊張の糸が切れて、力が入らなくなってしまった。
「はぁ………。」
ついた溜め息はこれからのことを思ってだ。
もう私は家には帰れない。
明智が私の家となったのだ。
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明智嫁連載をしたくって←
この奥さん、かなりお転婆設定でして、よくゆくはみっつんと仲良くなるよ!っていうまぁ有りがちなお話でした。つまらんな^^^^^
明智嫁連載は諦めてませんよ…!!みっつんといちゃこらする…!すみません、多分いちゃこらはしないです。