この世の綺麗を全て集めたような人だと思った。
かの方を皆は神と呼ぶ。
「きょうはひがらもよきこと。」
「左様にございますね。」
謙信様がわたくしの横でお茶を飲みながら、ほがらかにおっしゃった。
この時がわたくしの幸せのとき、直に壊しにくる輩がいるのだけれど。
「名!!!!貴様ぁあああ!!」
目を吊り上げた金糸の忍がわたくしを指差した。
「かすがさん、どうしたんですか。
綺麗なかんばせが般若のようですよ。ねえ、謙信様。」
「げんきでよいことですよ。」
「ああ…!謙信様っ!!」
謙信様は静かに笑い、かすがさんが喚く。
上杉軍では珍しいことでは無い。
「はなのきみ、」
花の君、と謙信様はわたくしをお呼びになる。
花のような娘、などと綺麗な意味では無く、花を育てるのが好きだからだ。
わたくしの周りにはいつも花がある。
「何でしょうか。」
「…………いえ…なにもありません。」
謙信様は時折このように言葉を濁される。
何が言いたいのか、と尋ねるのは容易だったがわたくしはそうしなかった。
きっと、時がくれば全て話して下さる。
そう信じている。
「謙信様。」
「なんですか?」
目を伏せていた謙信様はわたくしを見た。
綺麗な目だと思う。
「わたくし、今が幸せです。」
謙信様が目を見開いた。
「それはよきことですね。」
笑っていらしたから、わたくしはそれで良いんだと思った。
神の心は人知らず
人の心は神知らず
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上杉軍が大好きです0227