もしも、ヒロインが戦国BASARA時代にトリップしたら
多分きっと夢なのだろう。
暗闇の中で石造りの城が私の目の前にそびえ建っていて、私は誰かに呼ばれているような気がして、入口を探していたのだ。
「貴様、何者だ!」
いきなり背後から叫ばれて、私はぎょっとした。
立っていた男は銀の髪に月光を反射させて、鋭い目線で私をギラリギラリと睨んでいた。
肉食獣のような目から私は目を反らして、石造りの城を見上げた。
怖い。でもまあ所詮は夢である。
「中に入りたいんですけど…。」
「黙れ!!!!貴様が何者かと聞いている!!」
どうやら私は彼を怒らせてしまっているらしい。
何もしてないのになんで。
「何を騒いでいるんだい?」
聞き慣れた声が響いた。
やっぱりその人は柔らかい髪をふわりふわりとそよがせて、貼付けたような微笑みを浮かべていた。
そして、気付いたのだ。
似てるというかほぼ同一人物なんだけど、この人は竹中さんじゃない。つーか何その妙な格好。
「半兵衛様…!お騒がせして申し訳ございません。この不審者がどうやったのか侵入していたようで…。」
不審者ってそんな失礼な。
私だって気付いたらここにいたんだから。
「私もう帰ります。それで良いでしょ?」
「いや、待ちたまえ。」
私がいそいそとその場を去ろうとしたら、竹中さんモドキが私を引き止めた。
嫌な予感がして、聞こえないふりをして足を早めたが再び腕を捕まれた。
「………半兵衛様が待てとおっしゃっている。」
こ、こっえー!!!!!!!!!
ぎちぎちと私の腕を折らんばかりに握る男は、いますぐにでも噛み付いてきそうな勢いだ。
「何ですか…。」
「どうして今逃げようとしたんだい?」
貴方と話したくないからですなんて言えるはずもなく、笑って何でですかねとごまかしたら、腕を握る手が強くなった。
「痛い痛い痛い!」
「黙れ!!」
「三成くん、離して構わないよ。」
「はい、半兵衛様。」
何この完全に竹中さんの言う通りみたいな。怖いよこの子!
私は腕をさすりながら、竹中さんモドキの顔をうかがった。
「間者にしてはずさんだし、農民にしては手が綺麗過ぎる。商人には向いていないだろうね。頭悪そうだし。」
一言余計だよ。若白髪。
心の中で悪態をついたら、隣にいた男が私をギンギラ睨みつけた。怖い!怖いよ!この子もうほんと!悪の手先にしか見えないよ。
「ねぇ、君は何者?」
にこりと擬音がつきそうな竹中さんモドキの笑顔に私は口を引き攣らせた。
他の女の子なら確実に胸をときめかせるらしい天使の微笑みみたいに見えるけど、敵意の塊みたいな笑顔だ。こんな笑い方をする竹中さんはたいてい機嫌が悪い。いつも私はとばっちりだ。だいたい慶次さんのせいで。
「私はただのウエイトレスですよ。」
「…うえいとれすってのは南蛮語かい?」
「なんばんご?チキン南蛮とかの南蛮?」
意味が分かんないと聞き返せば、隣にいた彼に髪を掴まれた。え、何事何事。私が何したよ。
「貴様ぁああ!!半兵衛様になんとご無礼な口のきき方を!!!斬滅してやる!!!」
「痛い痛い引っ張らないで下さい。」
どうやら私が竹中さんモドキに敬語を使わなかったのが気に入らなかったらしい。この人さっきから実力行使過ぎて怖いんだけど。私死んじゃうかも。
「構わないよ、三成くん。」
「はい、半兵衛様。」
デジャヴュだよ。怖いわ。
「あなたたちは私が何なら満足なんですか。」
「君が何でも構わない。僕が君を」
お、今なんか地面がぐにゃっとした気がする。地震?
私がぼんやりしてる間に床が崩れた。
ああ、そうだこれは夢だった。
「っていう夢を見たんですよ。」
「頭が悪そうな夢だね。」
「コスプレしてた竹中さんに言われたくないです。」
「夢の僕モドキに切り刻まれれば良かったのにね。非常に残念だ。」
「包丁構えるの止めてもらえます?」
「豚肉を切るだけだよ。」
20110508〜20120411
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