朝から本当にご苦労なことである。
「竹中さん……。」
「おはよう。朝から随分げっそりしてるね。不幸が人になったみたいだよ。」
モーニングティーを優雅に飲んでいらっしゃる竹中さんはまあもう何て言うか、どっか城に住めばいいのにと毎度のことながら思う。
「とりあえず一言言わせてください。」
「何だい?」
「私に迷惑かけないでくれますか。」
「…僕も君に言おうと思ってたんだ。
順序だてて話せるようにいい加減なりたまえ。」
腹が立った私は重い鞄を竹中さんに投げ付けた。
竹中さんは案の定綺麗に鞄を避けたが、その鞄に視線を向けた。
「…今日はバレンタインだったね。」
「朝からほんっと…!!なんでほとんど引きこもりみたいな人がモテるんですか!!どこで女の子引っ掛けてくるんですか!」
朝から出会った女の子が私に頬を染めながら皆一様に言うのだ。
「竹中さんに渡してください…!」
恋する乙女は凄まじい。
元々、竹中さんは人から物を買う以外の方法で受け取ることを拒否する確率がとてつもなく高い。ギブアンドテイクでしか物を考えない。
そんな訳だから竹中さんに直接プレゼントを渡したところで受け取る確率は極めて低い。
しかし、以前竹中さんへのプレゼントを私に渡して、竹中さんに受け取らせたという女の子の噂を何処からか聞き付けたらしい。
ほんと何処からだ……。
「しかも、みんな私にチョコ渡す前に『彼女じゃないんですよね』のワンクッション入れてくるから、私間違えてたまたま会った片倉さんにまで『違います』とか意味わかんない返事しちゃったんですよ!」
「後半は君のミスだろう。」
「そんなの認めませんよ!」
ようと声をかけてきた片倉さんに違いますって言って、きょとん顔されたあげくに疲れてんのかともらった葱を竹中さんは拾った。
「とりあえず、その重たい鞄の中身を全部出して下さい。」
「なんで僕が。」
「全部竹中さん宛てだからに決まってんじゃないですか…!!」
「仕込み始めようかな。」
竹中さんは葱を持ったまま、私が引き止める間もなく厨房へ向かった。あの野郎いつか女に刺されちまえ!
レストラン・タケナカへようこそ
〜Saint Valentine's Day〜
その日の竹中さんお手製のまかないランチのハンバーグがハート型でした。
「ハートって……。」
「バレンタインだからね。来年は店で出そうかと思って。」
「私に出す必要ありましたか、それ。」
「いや、ビジュアル的に君がハートのハンバーグを食べてて違和感がないかどうか。」
「一回手酷くフラれてしまえ。」
「あはは、笑えないなあ。」
20110214〜20110224
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