私は山道をのそりのそりと登っていた。
何だか茂みばっかりでね、なんか熊とか出そう。私は単なる飛脚だから、熊を倒す能力は皆無である。
それにしても、山道辛い。
「つ、着いたっひぃい!!!!」
私が門にたどり着いて息をついた瞬間、無数の苦無が飛んできた。
動けないで固まったら鞋ぎりぎりに苦無が刺さっていた。
こ、殺される……?
「何だ、お前か。」
後ろを振り返れば金色に透ける髪をもった美女がいましたよ。
「死ぬかと思いましたよ!見て!この苦無!!足ぎりぎり!」
「わざとに決まってるだろう。」
美人なんですけどねぇ、かすが様。
どうも気が強いみたいで、私の心は穴だらけです。
「そうそう、今回はかすが様にも文があるんですよ。」
「私に?」
私がごそごそと懐を探り、探し当てたそれをかすが様に差し出す。
眉をしかめながら、かすが様の細い指がそれを受けとる。
ばさりと開いて、かすが様が数行読んだと思われてたが、次の瞬間には文は炎に包まれていました。
「かすが様!何てことするんですか!」
「うるさい!お前も下らないものを持ってくるな!!」
「えぇ…、それが私の仕事なんですけど…!」
私の仕事を全否定か!!
またこれは送り主に文句を言うとして、私はかすが様を見た。
「何はともあれかすが様が来てくれて良かったです。いつ熊が出るかと心配だったので。」
「春日山に熊はいないぞ。」
「かすが様が知らないだけかもしれないじゃないですか!」
私が言い返せば、かすが様は眉間にしわを寄せた。
「とりあえず、護衛よろしくお願いします。」
「謙信様がいらっしゃる城なんだから危険は無い。」
「なら、良いんですけど……。
さっき死にかけましたし、私ほんと丸腰なんですからね。」
かすが様が眉をしかめた。
何たってこの人はなかなか笑わないものだ。勿体ない。
「行きましょうか。」
私は荷物を担ぎ直して、頂上目指して再び歩き出した。
かすが様も渋々着いて来てくれた。
いやぁ、美女を従えて歩くなんてなんかドキドキしますね。
「疲れたら言って下さいね?かすが様細くて羨ましいですけど、心配で仕方ないです。」
「お前は私を馬鹿にしているのか。」
「まさか、本気で言ってますよ。私の脂肪を分けて差し上げたい。」
「……口を動かすより足を動かせ。謙信様を待たせるな!」
「かしこまりました。」
かすが様が謙信様と口に出した瞬間、がらりと空気を変えてきたので素直に頷き頂上を見上げた。
さて、もう遠くは無いですよ。
月 下 為 君
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