場所は最北。
装備は藁の草履と猪の毛皮。
涙も凍りそうなこの地に私が赴く理由はひとつ。

「飛脚でーす!いつき様はいますかー!!!」

村中で叫んだらくわやすきを持った男達がわらわらと寄ってきた。
いつきというから、てっきり女子かと思ってたが違うのか。

「お前さん誰だ?」

「いつきちゃんに何の用だべ。」

私を取り囲んだ男たちが口々に言う。

「わたくし、名前といいましてね、飛脚をやってます。とある方からいつき様に文を持ってきました。」

私が丁寧に説明したら、男たちは顔を見合わせた。
そりゃぁ、ここまで田舎だとなかなか飛脚なんかはお目にかかれないだろうよ!

「ちょっと待っとけ、今呼んで来てやるだ。」

どうやら敵では無いと判断されたらしい。
吹雪の中、ご丁寧に呼んで来てくれるそうだ。

「さぁみぃ………。」

「お前さん、そげな鞋じゃ寒ぃに決まってんだろう。」


「んー、そうですねぇ。お陰で足が凍りつきそうですよ。」

「ははは!いつきちゃんの用が終わったらあったけぇ汁物でも食わしてやるだ。」
「おーそりゃ嬉しいですね。ありがたく頂きます。私、豚汁が好きなんです。」

「あっはは!!残念だが、今は猪しかいねぇべ。」

「猪も豚も兄弟みたいなものですから、大丈夫ですよ!」

「はっは!そうか!」

豪快に笑いながら男は自宅に戻って行った。
いやぁ、田舎は人柄が良いですねぇ。

「お前が飛脚か?」

下から声をかけられ、目線を落とす。
そこに立つ女子…というか童が私を見上げていた。
何て言うか、ものっすごく可愛い。

「いつき様で?」

「おう!おらがいつきだべ!」

「では、間違いなく。」

私が文を懐から取り出して、いつき様に手渡す。
いつき様は戸惑いながらもそれを受け取り、困ったように開いた。

「誰からなんだ?」

いつき様が私に尋ねる。
尋ねずとも読めば分かると思うのだが、と考えたところで気付いた。

「私が読みましょうか?」

きっと、彼女は字が読めない。
そう判断して、申し出たらいつき様はにっこり笑った。

「頼む!!」

多分、文を貰うのも初めてなんだろうな。可愛いことこの上ない。
「それなら、おらの家に入れぇ。ちょうど豚汁も出来ただよ。」

後ろからかけられた声に私といつき様の意識はそちらに。
先程の男が笑いながら立っていた。

「良いんですか?」

「構うこたねぇだ。いつきちゃんも。」

「ありがとな!太助!」

私はいつき様に手を引かれて、太助様のご自宅へ。
一足入れば囲炉裏のお陰で暖かい空気が顔に纏わり付く。あったけーわあ。

「おら、姉ちゃん囲炉裏に寄るべ。」

「ありがとうございます。」

囲炉裏に近寄り、腰を下ろす。あったけーわ、本当に。
さて、いつまでも暖かさを堪能している場合ではない。私は文を開いた。

「宜しいですか?読みますよ。」

「おう!」

いつき様が元気よく返事したので、私はひとつ咳ばらいをした。
手紙の内容は、まぁ今年の田はどうかとか、みんなは元気かとか、何もないかとか、俺はいつもどうりだぜとか、すぐに俺が平和の世を作ってやるとかそんな感じだった。
うーん、武将様は言うことが違いますねぇ。

「…以上ですが、お返事書かれます?」

黙って聞いていたいつき様は難しい顔をした。

「おら、字は書けねぇ。」

「私が代筆しますよ。これでも字は褒められる方です。」

私が提案すれば、にっこり笑ってなら頼むといつき様は私の手を握った。
なんだこの可愛い子。連れて帰りたい。
私に家は無いんだけども。
いつき様が言う言葉を私が書くという作業を繰り返して、長い文が完成した。
猪汁も頂き、私は立ち上がった。

「行くのか?」

「はい、日が落ちる前になるべく進みたいんです。」

思わずいつき様の頭を撫でてしまった。
あんまり悲しそうな顔をするから、しかたない。
もちろん、怒る様子もなく、いつき様は私を見上げた。

「これ持ってけ。」

太助様が私に差し出したのは厚い鞋。
たっぷりと編み込まれたそれは私の足の倍はある。

「寒いだろ。」

「良いんですか?」

「太助は村で一番鞋を編むのが上手いべ、あったけぇぞ!」

いつき様がにこにこ言ったので、私はありがたく受け取ることにした。
うん、あったかい。

「お世話になりました、太助様。いつき様。」

「なぁに、気にするな。」

「気ぃ付けて行けよ!」

手を振り返して、私は痛い吹雪の中を進んで行った。





天 真 爛 漫

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