長い長い道のりを経て、たどり着いたのは良いんですが、また濃いお客だ。

「何じゃ、まろに会いとうなったか。」

「冗談は顔だけにしてください、義元様。仕事です。はい、文です。」

「どーういう意味おじゃ!?」

ぶっちゃけ会いたくなんかなかったさ!
でも、ほらこちらさんもね、上客ですからね。
とりあえず、文は押し付けたが、義元様はどうやらすぐに出て行かしてくれないらしい。

「そういえば、お前は諸国を回っておるんだったかの〜、名前。」

「そうですけど……何ですかその目。」

義元様は扇で口許を隠してほっほっほとわざとらしく笑った。
え、何この嫌な予感しかしない雰囲気!私帰りたい!

「そりゃあたくさんの女子にも会うだろうなぁ〜?」

「そりゃあ…、まあ…。」

「ほっほっほ。どれ、旅の途中にまろの嫁御を探してたもれ。」

「はぁ…?」

「何、贅沢は言わぬぞ。美人で器量よしでまろに優しければ他は何も言わぬ。」

そんな奴いるもんか!ほとんど完璧人間じゃないか!!
しかし、ここで反論したところで義元様は怒るだけだ。何の解決にもなりはしない。

「義元様、大変申し上げにくいですが、私はその頼みは聞けないです。」

「何?」

「義元様の奥になるということは、その何と言いますか、すごい…えー、高貴なことではないですか。
それを私の一存で決める訳にはいきません。」

「名前…!!そこまでまろのことを…!!」

義元様は扇で顔を隠してふるふると震えた。
烏帽子が義元様と一緒に揺れる。ちょん切りたい。

「そこまで、言うなら仕方がない。名前でも構わんぞよ。」

「あれ?なんでそうなったんですか?」

「ほっほっほ、照れるな照れるな。」

「先を急ぎますので、どうぞお元気で。」

ぞわりと寒気がした私は全力で逃げ出すことにした。
立ち上がった私に扇が飛んでくる。
え、殺す気!?

「であえであえ!まろの嫁御が逃げる!」

「冗談じゃねぇ!!!!」

死に物狂いで門まで逃げたら、門番さんは私に哀れみの視線をめいいっぱい投げかけて門を開けてくれました。おにぎりもくれました。

義元様に嫁ぐくらいなら、あの門番さんに嫁ぐわ!





虚 張 声 勢

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