あのあと、何事もなく別れた私と『毛利』さんもとい毛利くん。
連絡先を交換なんかするはずもなく。
交わした会話と言えば、「久しぶりだね」と「ああ」だけだ。
なんてそっけない。
「え、嘘、それだけ?」
「え、はい。」
私がやっぱりあのコンビニに行けば、『猿飛』さんは私の話を聞いて信じられないと目を見開いた。
「だって毛利の旦那、すっごい勢いでこの店出ていったんだよ?」
「え。」
「あんな走ってる毛利の旦那見たの初めてだったよ、俺様。」
「ま、まじですか…。」
「マジマジ。」
元から常連である私とフレンドリー過ぎる『猿飛』さんとすっかり世間話までするようになった。
聞いてれば、『猿飛』さんはどうやら私と同じ年らしい。
「アイス溶けるからかなあ…。」
「ねえ、それは天然ぶってるの?ぶってるだけだよね?」
「冗談ですよ。でも小学生以来ですよ…。今更どう話を広げろってんですか。」
「いくらでも広げれるでしょうが。」
「無理ですよ。私、猿飛さんみたいに会話スキル無いですもん。」
「何、会話スキルって。」
お喋りが上手くないってことですよと私が言おうとすれば、軽いコンビニの入店音が鳴った。
私がやべっと、会計を済ませた肉まんとアイスを持ってまた来ますと『猿飛』さんに言えば、『猿飛』さんは私の腕を掴んで引き止めた。
「な、何ですか。」
「ほら。」
『猿飛』さんが今まさに閉じようとしている透明の自動ドアを指さした。
「貴様、誰に向かって指をさしておるのだ。」
ふてぶてしい態度でこちらを睨む毛利くんの姿があった。
いや、多分目付きの悪い彼のことだ、睨んでなんかはいないのだろう。
「毛利くん。」
「何だ。」
「い、いや、久しぶり…。」
「…前に会ったばかりだろう。」
「ですよねー…。」
凄まじい気まずさなんですが。
助けを求めて『猿飛』さんと視線を横に流すと、『猿飛』さんは小さく頷いた。
「毛利の旦那、どうしたの?こんな所にさ。」
「我が何処で何をしようと、貴様に関係あるまい。」
え、『猿飛』さんが玉砕だよ…!!
毛利くんふてぶてしさが増してるんだけど、どうしたの!?
「まあ、そうなんだけどさ。どうせ客で来た訳じゃないんでしょ。」
「………。」
「わ、私、帰ります。」
雰囲気に耐え切れ無くなった私は毛利くんに向かってそう言って、『猿飛』さんに軽く頭を下げる。
さて、あとは毛利くんの横を通り抜けて自動ドアをくぐるだけなのだが、それはかなわなかった。
「待て。」
この状況で私を引き止めるとか本当に勘弁してください。
早く家のこたつでぬくぬく肉まん食べたい。
「なに…?」
「付いてこい。」
「え?はい?」
毛利くんは私の中途半端な返事を聞いて、すぐに自動ドアに向かって行ってしまった。
私どうしたらいいのと『猿飛』さんに目線を送ったら、とりあえず付いて行けば?と言われた。
「早くしろ。」
どうしようかと迷っていたら、毛利くんが振り返って私に言った。
仕方なく私は今度こそ『猿飛』さんにさよならと言って、毛利くんのあとを追った。
←