「…何処行くの?」

「………。」

ずんずんと前を歩く毛利くんに行き先を聞いてみたが、反応無し。
聞こえない距離ではないはずだが、もしかしたら聞こえてないのかも。

「毛利くん?おーい!毛利くーん!」

「……何だ。」

さっきより大声で言ったら、やっと返事を返してくれたものの顔は相変わらず前を向いたままである。
毛利くんが無口なのは知っている。
いや、知ってるとは言え小学生の頃の話だから、もう違うかもしれないけど。
でもまあ、今の状況を見る限りおしゃべりではないらしい。

「何処行くの?」

「………。」

今度は聞こえてないはずはないのに、毛利くんはまた黙った。
何、どういうこと?

「五年の冬を覚えているか。」

「え?小学校の?」

「…ああ。」

五年の冬と言えば、あの私の靴が無くなったときだ。
きっと、毛利くんはその日のことを言いたいんだろうと直感した私は頷いた。

「覚えてるよ。」

毛利くんが私を振り返って立ち止まった。
私も2mほど距離を開けたまま立ち止まる。
毛利くんは何とも言えないような顔をしていて、私はその時ぞわりと鳥肌がたった。
私、その顔見たことある。

「どうしたの…?」

「何がだ。」

「毛利くん、泣きそうな顔してるよ…?」

私の靴を持って現れた男の子は擦り傷や切り傷や青痣をたくさん作っていて、とてもいつも静かに本を読んでいる男の子には見えなかった。
その子はいつも無表情だったのに、私が靴を受け取って泣きながら喜んだら、その子も泣きそうな顔をしていて、それを隠すかのように私の前から消えた。
そうだ、あの日から私は毛利くんを学校で見てはいない。

「ごめんなさい…。」

「………貴様が謝ることなど一つもあるまい。」

「でも、」

「今更、そんな昔のことを掘り返して我が貴様を責めるとでも思うのか。」

冷たい視線で私を見下ろした毛利くんは呆れたように言う。
ああ、私はどうしてこう口下手なんだろう。昔からきっと何も変わっていない。

「お、思わないよ…!

あの時は、毛利くんが私の靴探して来てくれて嬉しかったよ。」

私が嬉しかったのは、多分靴が返ってきたからだけじゃない。
教科書貸しても、消しゴムあげても、毛利くんは私にお礼を言うことはなかった。
いつも無言でそれを受け取り、無言で私に素早く返してくるのだ。
私は気が弱い子だったから、初めて教科書を貸してあげた日は、それについて毛利くんに腹をたてることは出来なかった。
しかし、教科書を貸した次の日にはかわいらしい飴玉が私の机の中に入っていたし、消しゴムをあげた次の日には新しい消しゴムが私の筆箱に入っていた。
手紙があるわけでも、名前が書いてあるわけでもない。でも、誰からなんてすぐに分かった。

「あの後、すぐに毛利くんが転校しちゃって、言えなかったけど、」

いつものように何かの“お礼”ではなかったから、

「ありがとう。」

私は本当に嬉しかったのだ。





 
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