※現パロ
※百合要素有り



どうして僕は気がつかなかったんだろう。
後悔だけが僕をギリギリと締め付けた。ああ、僕があの時しっかりあの子を見ていてあげればこんなことにはならなかったのに。
目の前の扉を勢いよく殴りつけた。

「どうしたんだい?顔色が優れないようだけど。」

「た、けなか…どうしよう…。」

「落ち着きたまえ。」

扉から出てきた竹中はすぐに僕の異常に気付いた。あぁ、あの子の側にいるのがこの男だったら、良かったのかもしれない。

「死んだ…あの子が、死んだんだ。」

暴れまわる僕の心臓はもう爆発でもしてしまうんじゃないだろうか。
あぁ、そうなれば、僕も彼女の所へいけるかもしれない。でも、きっと僕が彼女を追ったとしても彼女はきっと僕を拒絶するだろう。
彼女は、

「僕が殺した…。」

大好きだった。愛していた。きっとこの世の誰よりも。
最愛の人を僕は僕の手で殺してしまった。あの子はもう帰らない。あの笑顔に会えない。もう触れることも叶わない。
何がいけなかった?そんなことはすべて分かってる。

「どうして、僕は女なんだろう。」

彼女が好きだった。彼女も僕を好きだって言ってくれた。
幸せだった。たとえ世間に認められなくても僕は幸せだった。

「今更、そのことを僕にどうこう問うのは間違ってるし、君らしくないね。」

竹中が静かにそう言った。
僕は静かに泣いた。
そうだ、もう彼女はどうしたって戻らない。

「あの子、親に勘当するって。」

「あぁ、聞いたよ。」

「あの子泣いてた。」

「だろうね。」

「僕のせいだ。」

「…どうかな。」

「一人にしなきゃ良かった。」

「……それは賛成出来ない。」

竹中がキッパリそう言った。
僕は少し顔を持ち上げて、竹中の顔を今日初めて見た。
青白く、生気の薄い男の顔。竹中も僕もけして健康な体ではない。もしかしたら死ぬかもしれないなんて言われた手術を何度か経験しているような脆弱な人間だ。
次に眠って、起きないかしれない。僕と竹中は同じ病に犯されていた。きっと、僕の顔も竹中と同じくらい青い。
「君は彼女のために死ぬつもりだったんだろう?」

竹中の言葉が痛い。涙が出た。

「親を苦しめることなんか君に出来るはずがない。でも、名君のことが大好きだ。別れると言えば名君は傷つく。そんな姿は見たくない。それなら、始めから君がいなかった事にすれば良い。」

「竹中、何を…?」

「きっと、名君は自分の死を君のために迷わず選ぶだろう。彼はそういう人間だから。」

「…誰の話をしてる?」

「彼に死んで欲しくないのなら、君が呪いをかけるしかない。」

僕は手の中の手紙を握り締めた。
彼女が残した一通の手紙を。

「竹中お前、彼女に何をした?」

「君が死ぬなと言えば名君は君の言葉を守るだろう。彼はそういう人間だから。」

竹中を突き飛ばして、馬乗りした。パジャマのボタンが飛んでいくのも構わずに、竹中の胸ぐらを掴んだ。

「お前はそれを、言ったのか、あの子に!!」

竹中は声を上げずに唇で弧を描いた。
僕は迷わずにその顔を殴った。

「君の心を否定する気はない。君が女しか愛せない女の子だとしても、僕は構わない。」

「黙れ!!」

涙が出てきたのは自分の弱さを思い知ったから。
彼女を守ることも出来ない。力いっぱい殴った竹中さえピンピンしてる。

「僕を恨め。君は悪くない。僕の死を君が望むなら僕は喜んで死のう。」

「うるさい…。」

「僕はね、名君。君に生きていて欲しいだけなんだ。」

彼女の手紙に書かれてたのは、僕のことが本当に好きだということ、僕に死なないで欲しいということ、そして、竹中を責めるなということだった。
この先、僕は自ら命を絶つことなんて出来ないし、竹中を責めることも出来ない。
彼女を本当に愛しているから。僕は彼女を裏切るようなことは出来ない。それは他の誰が許そうと僕が許せない。

「君が好きだよ。名君。」



       

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