突如、失踪なさっていた元就様が何事もなかったかのように帰宅なさった。
城内はもう大騒ぎだ。
随分と長く城を空けていたものだから、何処かで死んでしまったのではないかなんて言う輩もいた。
私にもあからさまな嫌味を言う人間まで出てきたものだから、そろそろ何か手を打たなければと考えていたところだ。
「ご無事で何よりでございます。」
「……あぁ。」
傷ひとつなく戻った元就様はほとんど上の空で返事をなさった。これは、おかしい。
いつも返事なんかしないでしょうに。
私の横を通り過ぎて自室に戻る元就様の背を追った。
「何かございましたか?」
「……名、」
「はい、名めは此処におりまする。」
ぼんやりとした視線で私を見下ろした元就様は、慣れない手つきで私の手を握った。
これには驚いた。
こんなことされたのは初めてのことだ。
戸惑いながらもその手を握り返して、元就様の言葉を待った。
「毛利は絶えぬぞ。」
「絶えぬ、とは?」
「後世にも、存在する。」
元就様はまやかし等を信じるような人間ではない。
失踪中に何を見たのか、は、私には分かり得ないが、こんな風に嬉しそうな元就様は珍しい。
私も笑う。
「それは、良きことにございます。」
そして、満足そうな彼に教えてあげよう。
「あの子が床を這いましたよ。」
今日は元就様の表情がよく変わる。
「何処だ…!」
「今から連れて参りますよ、お待ち下さいませ。」
そわそわと落ち着かない元就様を置いて、私はその場を離れた。
やれ幸せや
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