泣き声が城内に響く。
元就が軽く舌打ちを打つのを聞いて、家臣らは肩を震わせた。

「…あれは、またか。」

「乳母を変えますか…?」

「同じことよ。我が行く。」

そう言い終わるか終わらないかで、元就は歩き出した。
家臣らは軍議の最中にあの元就様が抜けるなんて、甘くなったなぁっていうか軍議どうするの?え?俺達だけじゃ決まらないよ?と何とも言えない気持ちになったのだった。

そんな家臣の心情を知るよしもない元就はずんずんと諸悪の根源である、名の元へ早足で向かう。

「も、元就様…!」

突然襖を勢いよく開く音と元就の登場に乳母が怯えたような声をあげる。
しかし、元就はそれに構わず、泣きわめく名を見下ろした。

「…幾度も我の邪魔をしおって。貸せ。」

冷徹と名高い武将の元就が、ついには実の娘をどうにかしてしまうのではないかと乳母は不安になったが、従わない訳にはいかない。
恐る恐る名を差し出した乳母は心の隅で奥方に謝った。

「貴様はあれに似てあざとい女よ。」

すると、驚いたことに元就の腕に収まった途端に泣き声は止み、代わりにけらけらと笑い声が聞こえた。
元就の言葉の意味がまだ首も座らぬ名に到底分かるとは思えないが、まるで全て分かっていると言わんばかりに名は笑うのだ。

「あれはまだ戻らぬ。我とて貴様に構うほど暇では無い。」

生まれて一月しか経たない赤子に何が分かると言うのだろうか。
元就が当然のように名に語りかける様を見て、乳母は微かに眉をひそめた。

「良いな、我の邪魔をするな。」

元就はそう言い切ると、乳母に名を渡す。
もう名が泣くことは無かった。

「…元就様のお言葉がお分かりになられるようですね。」

感心した乳母がうとうとする名を揺すりながら、呟くと元就はふんと鼻を鳴らした。

「当然なり、我の娘ぞ。」

それだけ言って元就は再び来た道を引き返して行くのだった。




ああ彼の人も人の子ぞ
(ただの親馬鹿か…)

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