「あねうえ、」と拙い言葉で私を呼んでくれたのはもうどれくらい前のことだったか。
可愛いあなたはいつの間にか立派になっていて、果てには私さえも利用するようになるとは思わなかった。

「大名様が私に惚れるなんて、とんだ笑い事ね。」

「考えなしの者ではあるまい。きっと裏がある。」

「私に間者でもしろって?」

「そこまで、器用だとは思っておらぬ。」

困ったことにこの実弟は私よりも賢く、私よりも現実的だった。
おのこは皆、天下だ何だと目指すものかと思っていたのだが、我が弟はただ安芸と毛利に安泰をと言うのだ。
競争心が無いと言うか、保守的と言うか…。

「私に何をして欲しいって?」

「嫁に行き、帰ってくれば良い。」

「もう少し詳しく。」

「祝言を終えた後に、奴らは安芸に攻め入る。その前に我が潰す。だから、帰ってくれば良い。」

しかし、まあ敵には容赦ないものだ。
姉使いも荒い。

「私が向こうに着いたらどうするの?」

「着くのか?」

「仮の話よ。」

「有り得ぬ話など時間の無駄ぞ。」

そう言って、弟は立ち上がった。
つまらないなぁと思うが、頭首である彼の邪魔をする訳にもいくまい。
私は素直にその背中を見送ることにした。

「必ず戻れ、姉上。」

姉である私に命令を下すとは気に食わないが、なんだかんだで私も彼が可愛いのである。
きっと私は毛利の家に居座り続けるのだろう。





誰より君を
(可愛がっているのはこの私)

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