「シズちゃんシズちゃん」
くいくい、と服の裾を引かれ下に目を向ければ、臨也がにこにこと機嫌良さそうに笑っていた。その臨也の手には冷蔵庫から取り出したであろうヨーグルトが握られている。
「ヨーグルト食いてぇのか?」
「ううん。オレじゃなくてシズちゃんが食べるんだよ」
静雄は、はて、と首を傾げる。何を思って臨也がそう言ったかはわからないが、静雄はヨーグルトが食べたいなどと一言も言ってはいないからだ。
「あ?何でオレが食うんだよ」
「だって、新羅がシズちゃんはカルシウムが足りないって。それにヨーグルトは牛乳より、えっと、カルシウムの吸収率?が高いんだって」
だから、食べよう?、と静雄を見上げ、首を傾げる。
食べる気はなかったのだが、臨也のそれを見ると無意識の内に頷いていた。
静雄が頷くのを確認すると臨也は嬉しそうに笑った。
「スプーン持ってくるから、シズちゃんは待っててね!」
ヨーグルトをテーブルに置き、パタパタと小さな足音を立てて、台所へと走っていく。数分もしない内に戻ってきた臨也の手にはスプーンが一本。
自分は食べないつもりなのだろうか。そう思いつつも、勢いよく静雄の胸に飛び込んできた臨也を受け止めた。
静雄の膝の上にちょこんと座り、ヨーグルトのふたを開ける。そこに、えーい!という掛け声と共にスプーンを突き刺し、ヨーグルトを掬った。
「はい、あーん」
体を静雄の方に向け、ヨーグルトを掬ったスプーンを静雄の口元へと持っていく。
「あ?」
突然すぎて状況が判断出来ない静雄が、聞き返すと臨也はぷくっと頬を膨らませた。
「シズちゃん、あーん!」
無理矢理押し込むように、口の中へスプーンを入れられる。すぐにヨーグルトが口の中に広がり、口からスプーンが抜かれた。
「おいしい?」
「ああ、つか何だこれ。クソ甘ぇ」
口の中に広がったヨーグルトには酸味がなく、甘ったるい味がした。
「あまい方がいいかな、って思って」
えへ、と無邪気に笑う臨也。確かに、静雄はどちらかというと甘党ではあるが、流石にこれは甘すぎる気がした。
「シズちゃん、もいっかいあーん」
再び差し出されるスプーンに顔を引きつらせながら、口を開く。
「オレが全部食べさせてあげるからちゃんと食べてね」
語尾にハートマークがついてそうなくらい、上機嫌で言う臨也に、静雄は断れるはずもなく頷くしかなかった。