感情的になることはあまりなかった。思ったことを口に出すようなことも少なかった。ただ、好きになったのは、それとは逆のタイプの女子だった。周りは意外だと言う。自分でもそう思う。けれどテニス部のやつらは口を揃えて「そうか?」と言うから、もしかしたらそう意外でもなければ偶然というわけでもないのかもしれない。


 そんな彼女の、様子がおかしかった。


 いつも明るい彼女が、ときどき泣き出しそうな顔をして俺のことを見ている。目を合わせれば彼女は何ともなさそうに笑うから、すぐにそれは消えてしまう。…そんな違和感すぐわかる。

「…、」
「どうしたの柳くん?」
「…いいや」


 彼女は、隠そうとするから。隠そうとしているものを無理やりに引き出してしまうのは野暮だから。


「そういえばね、みんなに意外だって言われちゃった」
「何がだ?」
「柳くんのこと。ほら、柳くんって静かな子と一緒にいるイメージだから」

 失礼しちゃうよ全く!と彼女は笑った。本当だな、と俺も笑って返す。すると彼女はああいう顔になって、でもそれを消してしまう。やがて俺の帰る方向と彼女の帰る方向の分かれ道に差し掛かって、二人は手を振る。しばらくして振り返ってみれば、彼女の背中は小さかった。



 そうか、理由はそれだった。なのに笑い話になってしまうんだ。彼女の前では。悲しい色をした、笑い話に。その色を塗り替えずに、そのままでいいかというとそんなわけはなくて、それが出来ない俺は。悲しい色をしている。



「待て!」
「っえ?柳くん?どうしたの?」


 追いかけて、振り向いた彼女の目はそれだった。こんなふうにさせているのが俺なら、それを無くしてあげることが出来るのは俺しかいない。いや、俺がしなきゃならない。



「そんなの、言わせておけばいい」
「ん?」
「意外だって何だって、俺がお前を選んだ」
「…うん」
「だから」

 一人でそんな顔をするな。そう言うと、彼女は驚いた顔をして、それから泣きそうなああいう顔をした。「柳くんには隠せないね」当たり前だ。俺とお前はそこまで意外というわけでも、偶然というわけでもない。好きなんだ。いつも見ているんだ。気にしているんだ。だから、当たり前だ。


「大丈夫、知ってる」
「え?」
「柳くんに、そういう必死な顔して追いかけてもらえるのは私だけだもん」
「、そうだな」
「…。…ありがとうね」


 その言葉で俺は、悲しい色じゃなくなって、同時に頬だってそういう色で染まる。「要するに、柳くんには私しかいないってわけだ!」彼女の笑い話も、そういう色へと変わる。ああ、その通りだ。だから、




bgm?衝動/pigstar
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