マサくんの学校は全国大会一日目を無事に勝ち進めた。もちろん、真田くんと柳くんは勝っていた。さらに驚くべきことにその後のシングルスでは幸村くんが試合をしてた。私のことを覚えていてくれたらしい。客席に私の姿を見つけた瞬間、「あ!」と幸村くんの口は開いて、それから綺麗な弧を描いた。


 そんなマサくんの学校。立海。もう一度あの場所を見たい、ふと思ってそれから行動に移すのは早かった。夕方、マサくんには内緒で。私は立海に足を運んだ。
 すると、誰も居ないと思って来たのにも関わらずそこには人影があった。どき、一瞬だけ焦った。けれどよくよく凝らしてみればその人物を私は知っていた。…真田くんだった。


「…真田くん」
「!…どうしてここになまえが」
「もう一回来たいなって思って」
「仁王は?」
「………内緒で来たんじゃ」


 フェンス越しに私は俯いて答える。真田くんはしばらく喋らなかった。怒られる、のかな。勝手に私一人でこのコートに踏み込んだこと。…一人で自主練習をしていた真田くんの邪魔をしてしまったこと。長い沈黙の後、先に口を開いたのは真田くんだった。「練習を手伝ってはくれないか」と。


「……え!?」
「嫌か?」
「ううんそうじゃなくて!私初心者じゃよ?テニスなんて一度もしたことなかよ?」
「大丈夫だ」


 そう言って真田くんは私をフェンスの内側に呼びラケットを持たせた。そしてコートの端っこに立たせた。そこから高いボールを上げてくれと言われ私はラケットを振る。ボールは放物線を描き真田くんの上へ。それから真田くんは高くジャンプしラケットを振り下ろす。…それがスマッシュだということは初心者の私でもさすがに分かる。風を切る音が心地よく私の耳に届いた。


「うわあ、すごいのう!」
「次!」
「えええ…!」




 しばらくそれは続いた。ちょうど一籠ぶんのボールがなくなったところで真田くんから終わりの合図が出た。そして彼は私の後ろのほうに散らばったボールたちを集め始める。それを手伝いながら、よく頑張るんじゃねと笑えば真田くんの表情は少しだけ曇った。


「今日、」
「うん?」
「柳とダブルスだっただろう?…一度俺がスマッシュを失敗したんだ」


 そういえば、真田くんの放ったスマッシュは一度だけアウトだった。でも、私からすれば一度しかアウトになっていない。すごい、のに。真田くんは納得していなかった。「俺がミスをしたから、頑張るのは当たり前…なんだ」、それはそれは悔しそうに言ったから、何と返せばいいのか分からなかった。それを察してか真田くんは早口で私に、「でもお前のおかげでいい練習ができた」と言った。もしもそれが本心なら、本当に本当に嬉しい。



「…だから今度は俺の番だ」
「え?」
「お前の話を聞こう」
「…」
「何か溜め込んでいることがあるんじゃないか、…仁王のことで」


 真田くんは優しくて強い。私の中のもやもやを、真田くんはすっかり察していたみたいだ。


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