「……あ、れ…?」


 マサくんに連れられてやってきた神奈川(結局私は何度も東京の方、と言ってしまってマサくんに何度も直されてしまった)は、私の住んでいるところの数倍、数百倍、とりあえずものすごく都会だった。聳えるビルの数々に目を取られていると、隣を歩いていたはずのマサくんがいなくて、私は泣きそうになりながらその姿を探した。


「なまえっ、」


 前方に、人ごみを掻き分けて私の名前を呼ぶマサくんが見えた。私の泣き目を見た瞬間にマサくんの焦りは大きいものになった、気がした。


「なまえ、すまん…」
「大丈夫じゃよ、ちゃんとマサくん見つかったし、」
「けどなまえ泣いて、」
「だーから、大丈夫って言っとるじゃろ!」


 私が笑って見せると、マサくんも同じように笑った。そして、私の頭をよしよしと撫でた。どうも私は、他の人より性格が子供っぽいらしい。だからなのかは分からないけど、マサくんは私に優しかった。優しかったというより、甘かった。



「つい、いつもの友達といるように歩いてしまってのう」

 マサくんは本当に申し訳無さそうな顔で言った後に、くしゃりと笑った。そうじゃね、仕方なかよという言葉が私の口から落ちた。
 やっぱり彼が本当に遠い存在になってしまったことを、嫌だ嫌だと自分の心が叫んでいたことは、気づかないふりをした。






「で、ここが立海じゃき」
「………。」


 街中で少し買い物をしたあと、マサくんの学校を見たいと言ったら「じゃあ行くか」と簡単に返事をしてマサくんが連れてきてくれたそこを見た私は何も言えなくなった。マサくんは私の顔を見て、「開いた口が塞がっとらんよ」とケラケラ笑った。


「マサくん、毎日ここに来ちょるんよ…ね」
「そうじゃき」
「…うわあ」
「ははは、…あ、テニスコートとか、見てくか?」


 うん、と頷くと、「こっちじゃ」と学校の敷地内へ躊躇うことなく彼は踏み込んだ。少しだけ軽くなったように思えた足取りを、私は小走りで追いかけた。


 たった今、向かっているテニスコートで、いわゆる運命の出会いをするなんて誰も、もちろん私自信も、想像つくわけがなかった。


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