斜め前を歩く真田くんと、ただじりじりと照り付ける太陽と、私と。思えば、真田くんのこんなに近くに立っていることも5年ぶりだ。初めてだらけの。ずっと忘れたくても忘れられなかった。忘れられるはずなんてなかった。そんな、あの夏から、5年。

 ねえ真田くん。向き合う覚悟って、なんだろう。何に、どんなふうに、向き合えば正解なんだろう。


「なまえ」
「…なに?」
「大丈夫か」
「?」
「手。…その、悪かった」
「え、あー大丈夫だよ、全然」
「悪かった」
「だから大丈夫だって」
「悪かった。俺の方こそ向き合わなくて、すまなかった」

 初めて、真田くんが私のことを振り返った。彼は大人になって、私も大人になって、それでもやっぱり彼に対して思うことは相変わらず5年前のままなんだ。


「あの、ね」
「なんだ」
「5年前、何も言わないで帰ったのは、真田くんの邪魔をしたくなかったからなの」
「…邪魔とは何だ」
「真田くんって、ほら、あの頃から全国区の選手だったでしょ?」
「…そうだな」
「それで、どれだけ頑張ってるかとか、知ってたから、その」


 自分で思うのと真田くんに話すのとでは、わけが違った。申し訳なさとか、後悔とか、私を探していたあのときの真田くんの姿とか、色々思い出して、どんな言葉も言い訳にしかならない気がして、言葉は上手には出てこなかった。
 そして真田くんは立ち止まる。すぐそこに会場は見えていて、賑やかな声がすぐ近くにあった。それでも私は、たった今この場所にはまるで真田くんと私の二人しかいないようなそんな空気を感じて、そんな空気の中で、真田くんの声だけを聞いた。


「…俺からテニスを奪えないと言ったのは、そういうことだったか」
「……うん」
「じゃあ、なおさらだ」
「え?」
「なおさらお前に、試合を見てほしい」
「真田くん、」
「それが俺たちの5年間なのかもしれないな」


 真田くんと別れて観客席に座る。すでにベンチには立海の部員たちがまとまって座っていて、ふとそちらに視線をやると、マサくんが私のことを見ていた。そして私がマサくんに気づいたとわかると、そっと口角を上げてピースサインを私に送った。



 あ、マサくんが家を出るのが早かったのは。
 あ、真田くんが私の居場所がわかったのは。



 そういうことだったのかと理解した私は、静かに笑って頷いた。満足そうに頷き返したマサくんは前を向いて、その後私を見ることは無かった。最後の試合が、始まる。


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