自分で探せるとは言ったものの、この会場か、高校のコートにいるかもしれないとそれぐらいの予想しか立てることが出来なかった。だけど、会場にも、高校にも、いない。ううん、と一唸りした私に稲妻が走ったのはすぐのことだった。中学校のコート、そこだ。


 私の推測は正しかった。中学生はもう部活を終えているようで、ほぼ貸しきり状態のコート。高校のコートは練習しているメンバーがいたから、思いっきり練習できるようにそっちを借りたんじゃないか、そんな推測。推測は当たり、真田くんと幸村くんが二人で真剣に打ち合っていた。ゆっくり近づいて、フェンスに手をかける。二人はよほどの集中力で、私に気づくことはなかった。
 私はじっとその光景を見ながら思い出す。ここは、私が、初めてラケットを振った場所だった。その前に、初めて彼に会ったのもここだ。流れてしまった時間と、変わることの無いこの場所の、何とも言えない違和感。そのことに私は不意に苦しくなって、下唇を噛んで足元を見た。


「急にやめるとは何事だ幸村!」


 真田くんの大きな声に、私はびっくりしてその顔を上げた。すると、すぐに幸村くんが私のことを見て笑っているのに気がついた。それは真田くんも同じで、彼は幸村くんの視線の先にいる私に、気がついたのだった。

「……なまえ」
「なまえちゃん、俺らがここにいること誰かに聞いたの?」
「え、あ、ううん」
「そっか。…真田、今日はもう終わりだよね」
「さっき始めたばかりではないか!」
「なまえちゃんが相手してくれるって」
「は、」
「ゆ、幸村くん!」

 幸村くんはコートを出て、自分のラケットを静かに私に向けて投げた。怒ったような表情を見せる真田くんと、戸惑う私を交互に見てから一言、「だってなまえちゃん経験者でしょ?」と。



「な、何で」
「仁王から聞いた。県大会の結構良いところまで行ったんだってね?」
「でも、」
「いいからいいから」


 ぐい、と背中を押されたそのとき、真田くんはまたもや大きな声で幸村くんを呼んだ。


「幸村!」
「なんだよ真田」
「俺はそいつとはやらん!」
「どうして?俺覚えてるよ、なまえちゃんに練習付き合ってもらったって真田が照れくさそうに俺に言ってたこと」
「…5年も前の話だろう」


 吐き捨てるようにそう言った真田くんもまたコートを出て行こうとした。真田くんが私のことを相手にしないだろうなんて覚悟を私は持ち合わせていたはずなのに、私は、それでもその背中を引きとめた。

「真田くん!」
「…」
「私と、試合してほしいの!」
「…試合?」
「1セットだけで、いいから」
「…」


 真田くんは少しだけ首を傾げたあと、くるりと足の向く方向を翻してコートに入った。怪訝そうな顔で「…試合って、どういうつもり?」と尋ねてきた幸村くんに、私は苦笑いを返す。それで不安そうに私の名前を呼んだ幸村くんは、私の小さな決心を感じてくれたのかもしれない。


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