私の名前を呼んだ真田くんは、その後私を見ることは無かった。試合の展開がどうなるんだろうなんて思う暇もなく、本当にあっという間に勝ってしまった真田くんと、同時に全員の勝利が決まった立海は足早にコートを去る。5年前よりもはるかに大きくなった彼の背中を視線で追うと、「お前の顔は見れない」と言った真田くんの声が頭の中にこだました。きっと、私よりも真田くんのほうが、心の準備ができてなかったんだと思う。
 小さくなる真田くんの背中。それが私たちの5年間で、私たちの距離だ。


「なまえ」
「ああ、マサくんお疲れさま」
「…ん」

 あの後、立海はもう1試合を残していた。だけど、私の足はそこから動かなくて、別のコートで立海が試合している間に私は別の学校の試合をぼうっと眺めていた。
 私の顔を見た、真田くん。約束を破った、私。考えれば考えるほどその足は重たかった。私と真田くんのことを応援してくれる幸村くんも、そばにいてくれるマサくんも、どうしたって真田くん本人じゃない。だから、彼の気持ちを変えられる人なんて、いない。


「…見つかってたなあ、真田に」
「…うん」
「あのときの真田、調子良かったのう」
「え?」
「ミスは最初のフォルトだけじゃったし。それに比べて次の試合は…」
「?」
「…はあ」


 大きくため息を吐いたマサくんは、ちらりと私のことを見た。そして、もう一度。


「はあ」
「何よ」
「いや、男はつらいなって思っただけじゃ」
「はあ?」
「弱音なんて言ってられんじゃ」
「別に、言えばいい、のに」
「言えるか。かっこつけていたいんじゃ、察しろ」


 察しろ、そう言われたって、察したって、真田くんの気持ちは。だけどもし、都合よく考えるとしたら?お前の顔は見れないと言ったのも、私が見ていた試合で調子が良かったのも、せめてもの真田くんのプライドだとしたら?そしたら、真田くんの気持ちは。


「先に家帰っててもらっていい?」
「わかった。…ああ、真田は、」
「いいよ、自分で探せる」


 私がそう言うと、マサくんはまばたきを細かく数回やった後、にやりと笑ったのだった。そうだ、真田くんの気持ちを変えられるのは、私しかいなかったはずだ。


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