新幹線から降りて、駅のホームに立つ。さっそくこちらに気付いた一人の少年を見て大人になったなあ私とは違うなあなんて苦笑いをする私。久しぶりだ、その少年も、この街も。意外にも緊張してる自分がいて私は深呼吸をする。 「久しぶり!」 「おう、久々じゃなあなまえ」 少年、とは同い年の私のいとこのことである。久しぶりに会った彼は少年とは呼び難いくらいに身長も伸びていたし雰囲気も大人になっていた。それもそうだ、前に会ったときから5年もの月日が経ったのだから。私たちは高校3年生になった。私が神奈川を訪ねてきたのには理由がある。発端は、数日前のマサくんからの「もうすぐ全国大会なんじゃけど」っていうメール。同じ高校生なのだから私にもわかる、これが最後の夏だということ。 「ところでなまえはどうじゃったん」 「何が?」 「大会じゃよ大会」 「ああ、県大会の準々決勝前で負けたよ。立海には到底及びませーん」 私はマサくんの影響で高校からテニスを始めた。初心者だったからそれなりに頑張った。そしたら人並みには試合に出れるくらい上達もした。部活の友達にも恵まれた。だけど、私の夏はもう終わった。 「…なあ」 「ん?」 「喋り方、変わったんじゃな」 「……周りの友達もこんなだよ」 マサくんがふと気付いて、それから寂しそうな顔をした。その理由くらい察することが出来る。だけど大人になったのはマサくんだけじゃないから。マサくんの身長が伸びたように、髪の毛を後ろで結うようになったように、テニス強豪校のレギュラーとして活躍するようになったのと同じように、私も変わった。マサくんは一言、「そうか」と呟いて笑った。 「…ねえ、」 「なんじゃ?」 「…」 ただ、変わらないことも相変わらずなことも多い。私はこの5年間ずっと一つのことを抱え続けてきた。だけどいざ言葉にしようとすると、頭の中からは言葉たちがすっといなくなってしまう。けどマサくんは賢くて、優しい。言わなくても何となく分かってくれる。マサくんと私の間に、私が望んでいた距離ができたとはいえ、甘えているのは私のほうなのかもしれない。それでもマサくんは優しい。 「相変わらず俺は怒られっぱなしじゃよ、あいつに」 あの夏を忘れられる日なんて来なかったんだ、ずっと。 |