続・少女漫画的展開、のような


らしくねェ質問がらしくねェ奴から向けられれば当然こんな反応が妥当だろう。


「は?」
「いや…すみません。やっぱいいです!」
「こらこら。言い逃げ禁止」


バッと頭を深々と下げる姿に、この3分の1でも沢村に礼儀があったら、と思いながら立ち去ろうとするそいつを呼び止める。沢村は3年の先輩やクリス先輩には暑苦しいほど礼儀正しいってのになんで俺にはああなんだ。キャップとかって呼ばれても敬われてる気が全然しねェ。言葉で態度を補えねェってのは損しかねェんだと思うんだが。


「俺の何がなんだって?金丸」


食堂でうちのチームの試合をビデオでスコアに照らしながらチェックしてた風呂上がりの夜のことだった。
自主練を終えたらしい金丸が食堂に入ってきて自分も観ていいかと聞いてきた。珍しいなと思いながらも疑問は湧かなかったから快諾。金丸も一軍のメンバーだし意識の高さがそうさせんだろう。そしてそれも間違いじゃねェんだろう。ただ金丸が沢村への対応を見るにこうして俺にわざわざあんな質問をしたのにはあの世話焼きの苦労性が発揮されてんのも事実。
それを分かっていながら引き止め言及し内心にやりと笑う俺の性格の悪さは誰に指摘されねェでも承知済みだ。


「み、御幸先輩の好みの女子ってどんなですか?……って聞きました」


あーこりゃ間違いねェな。
沢村に並ぶ馬鹿で阿呆、星野のために聞いてんだろ。
……と分かりながらも、好みねェー…、とわざとらしく思案。


「長澤まさみ」
「え!?」
「いいだろ?あの子。元気で化粧が厚くねェ健康的な可愛さっつーの?そういうの、飾らねェで身1つで勝負出来るとことか。脚もいいよなー、細っせェけどどことなく色気あんだよ」
「は、はあ…なるほど」


顔引き攣ってんぞー?金丸。辛うじて、確かにいッスよね、と同意をしているものの頭ん中ではまったく別のことを考えてるらしい上の空っぷり。コイツ意外と不器用か。


「金丸は?」
「はい?」
「人に聞いといて自分が話さねェとか、ナシだよな?」
「っ……」


お、ビデオで沢村が、おしおし!、と吠えてやがる。それを観てうんざりしたような顔をする金丸が1度固く噤んだ口を開く。


「俺は、何事も一生懸命な奴がいいです」
「!…ふうん。お、お前の打席だぞ。観とけよ」
「はい」


不器用ではあるが、金丸は馬鹿ではないはずだ。沢村に文句を言いながらも巻き込まれる不器用さと何事もそつなくこなす賢さは必ずしも並び立つもんじゃねェしな。
今の発言も、意図的なのかどうか。
普通抽象的なもんを言葉にする時、もっとこう、自分に遠くなる言葉を使うもんだろ。あの子、とか、そういう子、とかな。
一生懸命な"奴"ね。
なるほど頭に具体的に浮かぶ子がいるってことか。ま、理由は随分ざっくりだけど。


「あー!何してるんスか!?俺も混ぜてくだせェよ!!」
「うるせェバカ村!てめェがいきなり前に踊り出てきたせいで俺の打席が見えなかったじゃねェか!!」
「んー?あ、金丸が三振したやつじゃん。観なくて良かったな!!」
「余計なお世話だ!つかお前風呂まだなんだろうが!!早く入んねェと締まるぞ!」
「やべっ!あ、金丸!後で部屋に行くから今日のノート見せてくれ!」
「てめっ…!そうやって頼ってばっかいるからいつまでも…」
「じゃあなー!!」
「聞けよ!!」


嵐みてェな奴。つか俺には挨拶1つナシかよ。俺先輩なんだけど。


「あー…騒がしくしてすみません、御幸先輩」
「はっはっは、大変なお前も」
「もう慣れましたよ…。じゃあ俺も失礼します」
「おー。ノート準備しててやんなきゃなんねェしな」
「野球部みんながアイツのせいで馬鹿だと思われたら嫌なんで」


そう言って頭を下げて食堂を出て行った金丸と沢村、そして星野は同じクラス。何かと世話焼いてやってんのを先日の肩車の一件からもよく分かる。馬鹿や阿呆ではあるが、あの2人は不思議と人を集める人種。それに感化された金丸の心労は想像を絶するな。


「御幸先輩!遠くの女優より近くの私です!」


ハイそして期待を裏切らねェ奴来た。

金丸と好みの女子はどんなだとそんな話しをした次の日朝開口一番満面の笑みでそんな事をわざわざ俺のクラスにまで言いに来た星野に思わず、くくくっ、と喉の奥で笑う。やぁーっぱりか。金丸に俺に好みの女子を聞いてくれと頼み倒した姿が容易に想像出来るな。


「星野ー、お前何言ってんの?」
「え?だから、」
「長澤まさみ?」
「はい!」
「それ誰に聞いた?」
「!……えっと。天からのお告げで」
「なんでだよバカ。そんなお告げするほど天も暇じゃねェだろ」


にやりと笑う俺のそんな指摘に、むむむっ、と眉間に皺を寄せる星野がらしくねェ表情過ぎて、はっはっは!、と腹を抱えて笑う。あー本当コイツ見てて飽きねェの。

頬杖ついて眺める俺の視線の先でどうやらこれからどうやって金丸から聞いたことをごまかそうと考えてるらしい星野。へェ、んなとこは考えんだな。ケロッとした顔で、信二!、とかって言っちまいそーなくせに。


「ま、いいわ。黙っといてやるよ」
「いいんですか!?」
「ちなみに誰に?」
「!」
「はっはっはー!墓穴だな、星野」
「さすがですね御幸先輩!この星野を出し抜くとは!」
「いやちょれェから」


ししっ、と笑っていると教室の入口からこっちを覗くいくつかの目線に気付き、あーそうだ、とその中にこの前俺に告白してきた女の子の姿を見つけて、星野、と小声で呼ぶ。


「なんですか?」
「ちょっと耳貸せ、耳」
「取れませんけど」
「いやいや当たり前だろ。そういうんじゃねェよ、顔寄せろっつってんの」
「えぇ!?ちゅーするんですか!?」
「しねェよ!!あーっ、ほれ!」
「いたっ!いたたっ!」


これ以上星野がおかしな事を口走らねェ内に星野の耳を摘み無理矢理引き寄せその耳に向けて口を開く。
びく、と星野が星野が身体を揺らす。


「お前、俺の彼女のふりすんだろ?なら呼び方、前に教えたろ?」
「っ……」


耳から顔を離し真っ赤になってその耳を押さえてる星野にニッと笑う。教室の入口の方からは見えねェようにそっちを、ちょい、と指差して見せれば振り返り察したらしい星野が、なるほど、と頷きながら俺に向き直った。

こらこら。んな嬉しそうに笑うなって。
これも面倒事片付けるためなんだからよ。


「一也先輩!」
「よし。よく出来た」
「ご褒美に私の名前を呼…」
「呼ばねェよ」
「もう一也先輩ってばそんなに照れちゃって可愛いです!」
「俺、照れてんの?」
「違うんですか?」
「残念ながらなー」
「もう照れちゃって!」
「結局そこに落ちんのな」


コイツは今日もめでてェ前向きっぷりだ。
ま、見てて飽きはしねェし阿呆っぽく笑ってんのを見るのも和むっつーか、もうこのうるささにも慣れたっつーか。

ペラペラと1人で何が楽しいんだか喋り続ける星野を傍らに俺はいつも通りスコアブックに目を落とす。つかお前、そこの席の奴さっきから座りたそうにこっち見てんぞ?


「お、チャイムだ。早く行けほれ遅れんぞ」
「大丈夫です!次片岡先生ですから!」
「余計駄目じゃねェか!早く行け!!」
「一也先輩は照れ屋さんだなぁ。たまには、行くな!、ってあすなろ抱きしてくれてもいいんですよ?」
「他の抱き締め方したみてェな言い方すんな」
「じゃあまた昼休みにー!」
「はいはい」


どうせ来るな、っつっても来んだろうし軽くあしらい星野がパタパタと教室を走って出ていくのをスコアを目で追いながら耳で聞く。


「……御幸」
「ん?おー、遅かったな倉持」


もう授業始まるぜ?、とスコアブックから目を上げずに続ける俺に倉持からの声が返って来ねェ。
不審に思い顔を上げれば苦々しい顔をして俺を見下ろす倉持が、どういうことだよ?、と唸るように話し出す。


「何が?」
「とぼけんな。何が、一也先輩、なんだよ?」
「あぁ…。別に」
「別に、って…お前、」
「他意はねェって意味。あー…、色々あって面倒だから彼女のふりしてもらってんだよ」
「はあ!?」
「だから名前で呼ばねェと不自然だろ?」
「俺が驚いてんのはそこじゃねェよ!」
「なんだよ?何怒ってんだよお前」
「っ……もういいわ!お前と話してっと性格悪ィのが移っちまう」
「はっはっは、もう手遅れじゃね?」
「お前よりマシだ!!死ねクソ眼鏡!!」


うわっすげェ理不尽な怒られ方。
ガタンッと乱暴に椅子に座る倉持に隣の席の奴はビクッと身体を跳ねさせた。
何を怒ってんのか分からねェ俺はしばらく眉を顰め倉持の背中を見ていたが答えが見つかんねェことをいつまでも考えてる俺じゃねェわけで、早々に切り上げ入ってきた教師の始めた授業に集中することにした。


「御幸先輩はなんで眼鏡なんですか?」
「なんだよ突拍子だな。つか呼び方な」
「あ!眼鏡もすんごいカッコイイですけどね!!」
「聞いてたか?ん?」
「ひゃい。ひーれまひら(はい。聞いてました)」


むに、と頬を引っ張ってるってのに、ふへへー、と笑う星野に力が抜けちまう。
今日も今日とて俺の飯を食ってる隣に滑り込むようにして座った星野。
結局倉持はまだ怒ってるらしく目を合わせやしねェ。あの分じゃ今日は茶々入れてくる助けは望めねェな。
しっかし、何を怒ってんだか。


「えーっと、一也先輩!」
「よし」
「で!なんで眼鏡なんですか!?栄純が試合の時とか部活の時つけるスポサンの下はコンタクトって言ってましたよ!」
「あのバカ余計なこと喋りやがって」
「ふふん。カレーパン1個の威力をみましたか!?」
「俺はカレーパン1個で売られるわけな」
「高いですね!」
「お前の価値観どうなんだよそれ」


くはっ、と笑う俺の横で星野が食ってんのはオムライス。そういや倉持はあんな形してオムライスが好物なんだよな。……ふうん。


「星野」
「はい?栄純の情報欲しいですか?」
「いやいらねェ。それよりそのオムライス」
「うんまいですよ」
「そうか。んじゃ、あ」
「……はい?」
「あー。彼氏が、あー、ってしたらやること1つしかねェんじゃね?」


ま、ふりだけどな。ふり。

ぽかん、とする星野はなんであんな堂々と大好きやら結婚してやらを口にするくせにこうして不意打ちみてェに俺が寄ってやると放心状態になんだよマジ面白れェ奴。


「あ」
「あ、って……え!?まさか食べさせるんですか!?私が!?」
「他に誰だよ」
「私今から屋上から飛び降りてきます」
「なんでだよ!?」
「いえたぶん夢なんで!これ覚めないと一生眠っちゃうコースなんで!私を夢に引きずり込まないでくださいニセ御幸先輩!」
「はっはっはー、お前マジで阿呆な」
「痛い!」
「な?痛いんだから夢じゃねェよ」
「きっと衝撃が足りないんだと思います。内臓ぶちまけるぐらいしないと」
「おいおい俺の今日の昼飯レバニラ定食。なんかやめて」
「ほ、本当に駄目ですから発火しますから!」
「………」


面白れェー…。コイツのネジ本気でどっかで締め間違えているらしい。

真っ赤になって目も合わせられない様子の星野。あー…、これも演技っつー可能性もあんのか。前に俺が告白されてたとこに飛び込んできた時、俺が星野を彼女だっつっても思った以上の順応性を見せてたしな。あー、なるほどな。そう考えれば学食の人目につく場所でのこの反応も納得だな。サラッとやってるよりずっとリアルだもんな。


「星野」
「は、はい!」
「オムライス、スプーンに掬ってみな」
「はい?……こうですか?」
「もうちっとケチャップついてる方がいいけど、まぁいいか。ん」
「え……っっ!?」
「ん。うま」


口開けて待っててもこの分じゃいつまでもこねェし、星野のオムライスを掬ったスプーンを持つ手ごと引き寄せてぱくりと食う。まぁ、間接キスがどうとか気になるほどガキでもねェし。


「ごちそーさん」
「っっ……」
「おい星野…」


俯いて顔を上げねェからどうしたのかとその顔を俯こうとしたんだが。


バターンッ!!


「うおっ!!なんでだよ!?」


その場で気を失った星野のことをどこで聞き付けたのか沢村のバカが部活中に俺を罵り続けたのはまた別の話しっつーことで。



続・少女漫画的展開、のような
「おい!なんで俺の前にハンマー持って現れてんだお前!」
「だって御幸先輩なんかおかしいので。倉持先輩に言ったら、頭かち割ってみろ、って渡されたので」
「一応聞くぞ?割ったとしてその後どうすんだよ?」
「………」
「今気付きました、みてェな顔すんな怖えェよ!!」


続く→
2015/06/25


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