少女漫画的展開…のような


あぁそうだよな。これだよ、これ。これが正しい姿のはずだ。

目の前で真っ赤になり目も合わせられないながらも震える声で必死に伝えてくる。
あなたが好きなんです。
付き合ってください。
野球が1番でもいいんです。
そんな言葉の数々。

昼休み、お呼びだオラ、と倉持に背中を蹴られ半ば強制的に連れ出された先にはガチガチに緊張した1年だと自分を名乗る女子が立っていて何度か経験のある俺は、あぁ…、と心中で察し、行こうか、と彼女を人目になるべくつかないこの場所に連れて来たわけなんだが。


「ごめん。今は誰かと付き合うとか考えられねェから」
「そう…ですか」
「ごめんね」
「……あの!ならメールをしてもらってもいいですか?」
「あー…、俺全然返せねェよ?」
「いいんです!!」
「うーん……」


たまにすげェ粘る子がいる。大抵は引き下がってくれるんだけどなぁ……。この子は大人しく礼儀正しいからそんなことねェと思いきや、俺を真っ直ぐ見つめてくる目力の強さに思わずこっちが頭を掻いて顔を背けちまう。んー…見た目に騙されたか。


「言っちゃなんだけどさ、期待させるようなことしたくねェんだよ」
「練習の邪魔はしませんから!」
「……あのさ、」


今まさにこうしてる時間がすげェ邪魔してんだよ。

いい加減苛々してきて眉を寄せちまうものの、なるべく軽くそう続けようとした時、パンッ!!、と耳慣れない音がすぐ側で上がり俺も彼女もビクッと身体を跳ねさせた。


「御幸先輩!見ーっけ!!」
「!」
「え…え?」


おいおい。窓をあんな音立てて開ける奴初めて見たぞ。音も初めて聞いた。漫画かよ。スパーンッ、てんな文字が書かれてるみてーな。

ここは科学実験室やら日に当たらねェ教室へと向かう渡り廊下側の中庭で、場所が場所だけに昼休みに人はなかなか来ねェ…はずだ。
それを一体どんな嗅覚で嗅ぎ付けたんだかすっかり見慣れちまった顔が嬉しそうに俺を見つめて、にししー、と笑う。おーい、もう1人の女子が完璧空気になってんぞ。


「あの…御幸先輩、彼女…ですか?」
「ん?」
「ずっと気になってたんですけど…」
「あぁ…まぁ、コイツうるせェしな」
「そうですよね!御幸先輩冷たいこと言いながらいつもちゃんと話し聞いてくれてますもんね!」


そして無駄に前向き。
キッ、と対抗心剥き出しで星野を睨む俺に告白してきた1年女子と相変わらず、御幸先輩大好きです!、なんつってアホかましてる星野。
あーなにこれ。
早く教室帰りてェんだけど。寒ィし練習メニュー考えてェしスコアブック見てェし。

あ、そうだ。


「君、ごめん」
「え?」
「コイツ、俺の彼女」
「え!?」
「あはは。照れますねー」
「つーわけですっぱり諦めてほしいんだよね。コイツ大切にしてェし」
「っ……は、はい。お時間取らせちゃってすみませんでした」
「いえいえ。こちらこそありがとね」


ヒラヒラと手を振る俺に落ち込み肩を落としながらもきっちり頭を下げて去っていく女子。彼女って言葉の威力すげェー。

さー…て。面倒臭せェのはこっからだな。
窓から身を乗り出してる星野になんて言うか。今更あの女子に取り合えず引いてもらうための冗談だと言ったところで今にも、私彼女にしてもらえたんですね!、と騒ぎ出しても可笑しくねェ普段のコイツの無駄な前向き加減を思うと若干うんざりしてくる。


「あー…、と。今のはだな、星野」
「御幸先輩駄目ですよー?いくらなんでもあんな嘘ついちゃ」
「!」
「まぁでも御幸先輩が楽に断れるならいくらでもこの星野葵依の名前を出しちゃってくださいな!」
「お、おー。んじゃ、遠慮なく」
「はい!あ、そろそろ授業始まりますね!それではまた!!」


ピシャンッ、とまた窓を締めて嵐みてェに出てきて去って行った星野にこの場にぽつんと取り残された俺は釈然としねェっつーか…。いや、違うか。拍子抜けだな、拍子抜け。普段の星野の面倒臭さを考えたらあそこからもかなりの鬱陶しさを発揮すると思ったってーのに俺が言うより早く、嘘、と言い切る執着心のなさに肩透かし喰らった気分だ。なんで俺が。


「…ま、アイツの言葉も普段から冗談みてェなもんだしな」


不思議じゃあねェか。
頭を掻いて俺も漸く念願の教室へと戻る。
ひやりと頬を張るような冷てェ風がますます厳しくなる冬を感じさせた。


「ずっと疑問だったんだけどよ」


倉持がそう言い出したのはウエイトを散々やった後に死ぬほどランニングをした後の休憩時だった。
息を整え冬でも容赦なく流れる汗をタオルで拭う俺はマネージャーからドリンクを受け取りながら、なんだよ?、と聞き返す。
倉持の視線は夏や秋よりはグッと数の減っているフェンス越しのギャラリー達へ投げられてる。


「星野、ここには来ねェのな」
「は?」
「は?、じゃねェよ。あれだけ熱狂的にお前追っ掛けてんのにグラウンドには来ねェの、不思議だろ」
「あー、そういや1回も見たことねェな」
「見なくてもあんな騒がしい奴だから声ぐれェは聞こえても可笑しくねェだろ?」
「だな」
「アイツ、なんか部活入ってんのか?」
「俺に聞くなよ。知らねェよ」
「は?なんで知らねェんだよ。聞かねェのか?」
「興味ねェし」
「ひでェ奴!!」
「いてっ!!」


ドリンクのボトルで叩くんじゃねェよ。いくら空だっつっても痛てェぞそれ。

一遍死ね!、とお決まりの捨て台詞を吐いてその場を離れる倉持。確かにそういや……あのお決まりのOB達の顔触れや生徒たちの中に混じった星野を見たことは1度もない。

ますますアイツがどんな奴かが見えなくなる。いや別に、どうでもいいんだが。


「みっゆきせんっっぱーい!!」
「うおっ!!お前っ、今何時だと思ってんだよ!?」


妙に星野のことを考えたその日1日の最後、練習も終わり寒ィ中コンビニに行こうと歩く道すがらにまさかの声が上がりまた身体が跳ねる。神出鬼没過ぎだろコイツ!


「つかいきなり暗がりからくっついてくんな!ビビるだろうが!」
「え!?ドキッとしました?それって私のこと好…」
「ちげェよ!」
「チッ…吊橋効果は失敗か」
「おい、今聞きたくねェこと聞いたような……いやいい、言うな。ろくな言葉じゃねェのは分かってっから」


はあぁ、と溜め息をつくも俺の左腕に纏わり付く星野に効果がねェのは分かってる。それに本人と驚くほどあっさりとした同意があったとしても星野を彼女だなんつー嘘に付き合わせちまったという罪悪感も手伝って歩きながら腕を振り払うことはしなかった。あー…あったけ。うるせェけど。


「それでその時栄純と信二が…」
「ちょっと待て」
「栄純と信二が連れションから帰ってきた時の話題をですか?」
「いや違くて。つかお前、女だろ?一応」
「つくものついてます」
「それ男みてェな言い方だな。まぁとにかく女が、連れション、とか言うな仮にも俺の彼女っつーふりしてもらうんだし」
「あいあいさー!」


ニッと笑う星野は気にしてねェみてェだが、仮にも、だとか、ふり、だとか。自分でもひでェこと言ってると自覚はある。……ま、コイツがもし俺のこと本気だったらまずこんな風に言う俺に平静でいたりしねェだろ。やっぱ白だな、コイツ。色んな意味で。


「お前、金丸のことも名前で呼んでんの?」
「え?まあ…はい」
「なんで?」
「友達なので」
「友達はみんな名前呼びかよ」
「基本は」
「小学生か」
「失礼な!明らかに、呼ばれたくない、オーラを出してる人は名前で呼んだりしませんよ」
「ふうん」


言葉ほどの説得力がねェのはコイツの普段を知っているからだが、どうも釈然としないのはなんでなのか。それは分からないまま口を開く。


「俺、そんなオーラ出してる?」
「え?」
「いや。お前呼ばねェじゃん。許可もなく呼んでそうなのに」
「考えたこともありませんでした」


俺の腕にまだ絡み付きながらぽかんとする星野の顔が横を通った車のライトに照らされてはっきりと見える。お…コイツの目、こんなに茶色がかってたか。そういや顔なんてちゃんと見たことねェし、暗がりなもんだからちょっとした明かりでも顔の輪郭にはっきりとした明暗が出来る。
別人みてェに見えんのは、きっとそのせいだな。


「……呼んでみ?」
「はい?」
「俺の名前。ほれ、彼氏役として呼ばせてやっから」
「え、えぇ!?いいですいいです!!そんな御幸先輩のお父さんとお母さんがつけた大切な名前を私ごときが呼んだりしたら腐っちゃいますって!」
「名前が腐るってどんなだよ!」
「ほ、本当にノープロブレムっす!」
「それ"問題ありません"って意味だから。じゃあいいよなー?ほれ」
「っ……」
「呼んでみな」


あれなにしてんだ俺は。
ただコイツがこんな反応をするなんて思ってなかったから予想外っつーか、面白れェ!!普段飛びついてきたり恥ずかしい言葉を平然とストレートに投げつけてくるくせにこんな事で狼狽えてんのかよコイツ!

クッと口角が上がんのが自分でも分かる。
頭の中にあった、コイツはこんな時間まで制服で何してたんだ?、なんていう疑問は俺の腕から離れようとした星野の手を逆に引き寄せた瞬間になくなった。
ちょうど外灯の下で、驚き俺を見上げ見開いた星野の瞳に俺の姿が映ってんのを見るのは妙な満足感を俺に与えた。


「ほら」
「っ…か、」
「………」
「かず、…っかずや、せんぱい」
「!」


うお…すげェ真っ赤じゃん、コイツ。
そうして俺まで顔が熱くなっちまう感覚と共に心臓が跳ねてんのに気付く。

あれコイツ、結構整った顔してんだな。ちょっと前髪長げェけど。
もっとよく見てみてェだなんて無意識に星野の前髪を避けようとそれに触れるか触れないかギリギリのところで星野がバッと俺から離れて、


ゴンッ!!


「あ」
「いっっ……たぁぁい!!」


盛大に後ろの塀にぶつかった。


「ブッ……!はははは!!おま…っ、何やってんの!?腹っ、腹痛て…!くくっ」
「わ、笑いすぎじゃないですか!?だっ、だって御幸先輩がいきなり……!もうこうなったら!」
「は?なに?」
「私を好きになってください!」
「いや無理」
「一刀両断!!」
「だってお前と付き合ってんの想像出来ねェし」
「私は出来ますよー?ちゅーしてるとこもセック…」
「アホ!!」
「痛い!!傷物にしましたね!?責任取ってください!」
「紛らわしい言い方すんなバカ!!」


思いっきり頭叩くとか、んなこと出来る女子を好きになるわけがねェ。跳ねた心臓がゆっくりいつものリズムを取り戻すのを感じながら吊橋効果ってのは意外に侮れねェかもしれないと頭の片隅に置いた。



少女漫画的展開、のような
「……なぁ、なにしてんの?お前コンビニで何してんの?」
「いえ近い将来のためにですね、後学を」
「突っ込まねェからな、俺は」
「御幸先輩。これって付けた時そんなに変わるものなんですか?1ミリぐらい」
「聞こえねェ。俺は御幸じゃねェ」
「よし。やっぱり買って開けてみないと……」
「やめろバカ!!」
「あ、なんだかんだちゃんと突っ込んでくれるんだから大好きです結婚してくださいというわけでやっぱりこれ買いましょう!!」
「買わねェよ!!」


続く→
2015/06/23


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