狙い球絞って狙い打ち


「星野ー?行くぞー?」


ガタンドターンッ!!


「ぶはっ!はっはっは、大丈夫か?お前、何してんの?」
「だっ…だって御幸先輩!私が迎えに行くって…」
「俺別に頷いてねェだろ?」
「そう……だった!?」
「俺に聞くなよ知らねェよ!!」


おー星野と沢村は隣の席なのか。
こりゃ色んな意味で教師は大変なー。確か現国は片岡監督が担当になってるって前に聞いたな。一体どんな授業風景なんだか、想像するだけで…やべっ、笑えるわ。

ぷくく、と笑う俺が授業やHRすべて終わって1年C組に星野を迎えに行けば期待を裏切らねェ反応をする。いや、期待以上か?まさか椅子から滑り落ちちまうとは。


「準備出来たかー?」
「も、もうちょっとですので!」
「んー。急がねェでいいぞ」
「って言いながらなぜ俺の椅子に座るんだ!?」
「なんだよ、いけねェの?つーか俺、」
「座るんでしょーか!?」
「そうそう先輩な」
「ぐぬぬぬっ」


やめろバカ、と呆れた顔をしながら沢村の首根っこを掴む金丸に頭を下げられ、おう、と手を挙げて応える。
おーおー、すげェ見られてんな。
そりゃ終業したっつっても此処は1年の教室だしそう上級生がこうして入ってくることはねェだろ。用があっても廊下から呼び出すのが大抵だしな。


「あ、あの…教室居づらくないですか?廊下でも…」
「やだ。寒ィもん」
「だから私が迎えに行こうと思ってたんですけど…ごめんなさい!!」
「へ?なんで?」
「担任が…!栄純なんかを叱ってたから!!」
「なんか!?なんかっつったか!?星野ー!!」
「だからいつもより時間が掛かっちゃったんですもう栄純のバカ!!」
「俺か!?俺が悪ィのか!?」
「だったら誰が悪ィんだよ…」
「えーっと…」
「探すなバカ!!」
「そうだバカー!!」
「バカって言うなァァー!!」


あーあ、大絶叫で口論を交わす1年の姿に苦笑いする俺だがこのクラスでは日常茶飯事らしい。周りからは、またやってるー、やら、あの2人可愛いよねー、やら、お似合いなのになー、なんて声が聞こえてくる。つか星野なんで半泣きなんだよ。

ふうん。お似合い、ねェ…。


「星野ー」
「はい!!」
「はっはっはー!早ェ」
「御幸先輩のお呼びとあらば!」
「なら、ほれ」
「なんです?」
「座ってみ?」
「自分の椅子に、ですか?」
「そーそー」
「はい!!」


ありえねェ話ではあっけど、例えば星野が犬だとしたらすんなり俺の言葉に…しかもすげェ嬉しそうに従うこんな時はしっぽブンブン振ってんじゃねェかな。たぶん。

俺の隣、すなわち沢村の椅子に座るその隣の自分の椅子に座る星野は不思議そうにしながらも嬉しそうに笑って俺を見つめる。


「……こんなもんか」
「はい?」
「いや。同じ学年だったら毎日こんなんしてたかもなー、って思って」
「そ…それは…!」
「?…なんだよ?」
「危ないのでは!?」
「なんでだよ!?」
「だって毎日御幸先輩が隣の席だなんて成績崩落しちゃうし理性持ちません!!」
「怖ェこと言うんじゃねェよ!!」
「わぁぁっ、想像するだけで大変なことになるからなんとか毎日隣の栄純で気を紛らわしてたのに!」
「おいそれどういう意味だよ!?」
「はっはっはー。沢村、男に見られてねェって」
「うるせェ!!語尾に嫌なもん感じるからその言い方よせェェー!!」


気持ち悪ィんだよ!!、とまた先輩後輩の分別なしに騒ぎまくる沢村は、このバカ!、と執り成してきた金丸に預けるとして。

まるで軍隊の鬼軍曹にでも睨まれちまってる小隊の兵みてェに、かちこちになって緊張して姿勢を正して座る星野に、ふはっ、と笑いが零れる。
あー…悪くねェよな。本当お前、なんで俺と同じ学年じゃねェの?そうすりゃ同じクラスじゃねェにしても選択した科目によっては隣に座れたかもしんねェし。いや、委員会が同じだったらあるいは…か?


「星野、星野」
「は、はい!」
「こう…、やってみな」
「こう…れすか?」
「ん。んで、こっちも」
「ひゃい(はい)」
「ぶはっ…!!」
「!」
「ぶくくくっ、はっはっは!お、おま…っ!」


ちょっと緊張が解なきゃやりづらくてしょうがねェ。
そんな気持ちで両頬引っ張らせたら思いの外それが全力だったもんだから予想外すぎて抱腹絶倒もん!腹抱えて笑いを堪えようとするものの身体震えちまうしこりゃあんま意味ねェな。


「ふふふー」
「!…お前ね、こういうの普通怒るところじゃねェの?」
「え?そうなんですか?」
「いや俺が聞いてんだけど」


ふはっ、と笑いながら気付く。
コイツと喋ってっと笑ってばっかだ。


「んー…。世間がどうかは分かりませんが!私は御幸先輩が笑ってくれたらそれでHAPPYです!」
「ハッピーの発音すげェいいな」
「将来は留学しますからね!」
「マジかよ」
「まぁそれはさておき」
「おー」
「御幸先輩が隣!」
「!」
「ふふふー、嬉しいです!」


……勘弁しろよなぁ、マジでよ。

屈託なく笑う星野に俺も顔が緩んでどうにか机についた頬杖のついでで口元覆ったみてェにしてごまかしてみたところで、さて、やり切れてっかどうか。

目を細め緩んだ顔構わねェで星野を見つめていれば顔を真っ赤にしながらも、へへっ、と星野も嬉しそうに笑う。
気分が甘めェとそれに関連したもんを勝手に探すのがいきなり高まった精神の補完なのかは分からねェけど、ふとパインアメの匂いを思い出したりした。


「なぁもうアメねェの?」
「パインアメですか?」
「ん」
「ありますよー。食べますか?」
「んー、いや。食って?」
「え?私がですか?」
「うん」
「?…いいですけど」


小さな袋から取り出した黄色いアメを口に入れてからりと転がす星野がにこりと笑いながら首を傾げる。
いやー、あれな。これは。
餌付けしたくなるみてェな。あのアメ俺のじゃねェけど。
小さく膨れる星野の頬は赤けェ。思わず伸ばしそうになった指先を握り締めて、さて、と立ち上がる。


「行けるか?」
「はい!」
「じゃあ…、ん」
「はい?」
「はい?、じゃなくてな。ん」


立ち上がった俺に応じて立ち上がった星野に手を差し出すと星野がしばらく思案げにしていたがすぐに目を輝かせてこくこくと何度も頷いた。
よしよし。分かってくれたみてェで良かったわ。


「はい!どうぞ!!」
「………」
「よーし!行きましょう!御幸先輩、手袋しましたか!?雪をナメちゃいけませんよ!?霜焼けお手々がもう痒い現象になりますからね!!」


ポン、と俺の手の平にパインアメを乗せて満足げに笑った星野がスタスタと教室を歩き出るのを見送りながら呆然としてアメを握り締める。


「ぶふっ!!」
「あ、沢村おま…!」
「だぁーっはっはっは!ア、アンタ上手くかわされちまってるじゃねェですか!」


遠慮のねェ沢村のバカ笑いに堰を切ったように教室のあちこちで遠慮がちで小さいながらも笑い声が上がる。
まぁこれぐれェは想定内だな。アイツバカだしな。


「はっはっはー。沢村許さねェ」
「んがっ!なんで俺だけ!?」
「うるせェ帰ったらみてろよ」
「横暴だー!みんなだって笑ったのに!」
「うるせェ。じゃあなー。お前、あんま雪で遊ぶなよ?んで、外出るなら肩冷やすんじゃねェぞ?」
「分かっておりやす!!」
「へー」
「どうでもいいなら聞くなよ!!」


本当元気なー、アイツ。ああも先輩に噛み付けて、片岡監督にも物怖じしねェ奴もそうはいねェ。マウンド度胸もあるしこれからどう楽しませてくれんのかね?

しっかし…手を繋ごうっつー意で手を差し出したっつーのに星野には俺がパインアメを無心してるように見えたってことか。どうなってんだ、アイツの中の俺は。


「星野ー」
「はいはーい!」
「あのさ、俺と手繋ぐとかどう思う?」
「ふあっ!?」
「変な声出てんぞ」
「手、ててててっ、手を繋ぐって!?あの…joinってことですか!?」
「あー、たぶんそれ」
「そうなったら夢です!」
「こらこら。勝手に夢にすんなよ」
「だって、」
「うん?」
「そんなこと、ありえませんもん」
「!」


歩く廊下を立ち止まり俺を振り返っていた星野が眉を下げ笑いきっぱりそう言ってから、では校門前で!、と1年の下駄箱に近い階段を走り下りて行く星野の足音を聞きながら頭を掻く。

俺と手を繋ぐのが嫌じゃねェってのは分かった。けど事態はそれよりなかなか重大らしい。
こりゃ例え言葉ではっきり言ったとしても冗談として処理されちまうんだろうな。今までの俺の所業のせいだとは言っても……どうすっかなぁ…。


「御幸せんぱーい!」
「おー。……な、手寒ィな」
「手袋ないんですか?」
「んー。部屋」
「ならこれどうぞ!片方ですが」


いやそうじゃねェよ!


「あ、やべ。俺傘ねェわ」
「そんな時はこれ!チャララランッ!折り畳み傘ー!どうぞ!」


用意良すぎだろ!

無地の、俺が差しても差し支えのねェ色の折り畳み傘を渡され星野はいたって安っぽいビニール傘を差す。
なんでビニール傘?、と思ったまま聞けば、雪が見られるので!、と電車を降りた時コンビニでわざわざ買ったらしいことを嬉しそうに話す。

あー…行っちまう、ずんずんと雪の中を。
まったく人の気も知らねェで……って、当たり前か。俺の気持ちなんて喋ったことねェし、今までの態度を考えると無理もねェんだろう。
しっかし…どうしたもんか。


「っ…だから、それじゃ意味ねェだろ!」
「!」


って、違げェよ!!これじゃ逆効果じゃねェか!
雪の中を振り返らず歩いていく星野を呼び止めその手から傘を奪ったのは良いもののどうしても口から余計な言葉が出ちまう。挙げ句驚き目を見開いた星野に慌てた素振りも見せてやれねェんだから俺…どんだけ冷酷な男に見えてんだ……?

けど、こうするしか手が浮かばなかった。
っつーのは言い訳だって分かってんだが。
とりあえず星野を呼び止めて、意識を向けさせるもんがなんでもいいから欲しかった。
それが例え、恋人のフリしてんだから相合い傘ぐれェしねェと、と言い回してるように誤解されたとしても、だ。


「あ…えっと、ごめんなさい!いやぁ、私としたことが!こんな恋人の美味しいシチュエーションを逃してしまうとは!」
「………」
「あは、あははは…。み、御幸先輩背が高いから傘を見上げる景色が全然違いますね!!」


なんで、気付かなかったかな。
おそらく…いや、たぶん。……きっと。星野は俺に恋人のフリをさせられるたびにこんな顔をしていたんだろう。

明るい声が心地好くて、スコアブックのスコアを目で追いながら傍らにするのが鬱陶しくなくなったのがいつからだったかさえもう分かんねェ。
ただ顔を向けて見れば星野の笑顔は引き攣っているし、隣を歩く身体はぎこちなく強張っているようで。傘を指差して、雪ですね!、と言うその指が微かに震えているのも寒さだけのせいじゃねェはずだ。


「っ…だあぁーっ、くそ」
「え!?ど、どうかしましたか!?」
「……した」
「腹痛ですか!?」
「違う」
「ど、どこが悪いんですか!?」
「んー……頭かな」
「頭ぁぁー!?」
「こらこら。ふらつくなって」
「あああ、頭ですか!?とりあえず動かない方がいいです!」
「…そうな。お前も動くなよ?」
「へ?」


バカで阿呆でうるせェだけだと"思っていた"後輩と所謂相合い傘をしながら俯いてた顔を上げて向き合う。
くー…っ、顔が赤くなっちまう。
けど、ここは狙いどころ。外すわけにはいかねェ。


「っ…あの、な」
「はい!」
「フリ、とかじゃなくてー…、だな」
「はい!」
「そういうの関係なくこうしたいと思ったんだよ」
「はい!」
「………」
「………」
「………」
「はいぃ!?!?」
「ぶはっ!はっはっは!反応遅せェ!」
「御幸先輩!頭やっぱり悪くなってますよ!?」
「お前が言うんじゃねェよ!!」


くそ…!コイツの前で馬鹿正直に打ち明けちまった俺が馬鹿だった!!

緊張に跳ねていた心臓は一向に落ち着く気配なし。傘を持つ手が寒さとは違う震え方をする。色々不本意過ぎてしょうがねェ。

けど。


「……なーに笑ってんだよ?」
「え!?わっ、み、見られてた!」
「…見てるよ、俺」
「はい!?」
「お前が思ってる以上にお前のこと見てっけど?」


むぅ、とガキ臭く唸りながら手で真っ赤になった両頬を覆う星野がそれでも隠せず嬉しそうにへにゃりと笑うから、まぁ……いいかな。



狙い球絞って狙い打ち
「みがきかけたこのからだー!そうなる値打ちがあるはずよー!弓をきりきり心臓めがけ、逃がさないパッと狙いうーちー!」
「………」
「どうですか!?御幸先輩!心臓撃ち抜かれましたか!?」
「はっはっはー!お前がもうちっと大人になったらなー、されんじゃね?」
「む…!男子三日会わざれば刮目して見よ!、ですよ!?」
「お前は女子だろうが」
「こうなったら!!ももいろのハートを狙い撃ち!」
「はいはい(やっべー、フリ付きでやられると威力が)」
「こうなったら下手な鉄砲数打ちゃ当たる戦法です!」
「別に下手じゃねェけど」
「…え?」
「あ、やべ」


続く→
2015/07/14


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