結論を話すことにした俺の話し




ごちゃごちゃとした過程を除けばたった1つ、くっきりとしたものが浮き上がる。
それは昔から知っている感覚で俺のど真ん中にずっとあるわけで、だからかそれを見つけた時は酷く懐かしいような気がした。


「…き。…御幸!!」
「……あ、わり」
「なんだよ、聞いてなかったのか?」
「聞いてなかった」
「はっきり言うていっそ清々しい雰囲気出すなや」
「ごまかすよりいいだろ?」
「許されるの前提で話してる時点でアウトだろ」


そのキメ顔がムカつくしな!、と怒る倉持に眉を顰めるだけのゾノ。
頬杖をつき目を落としていたスコアブックを読みながら頭の中で試合を展開していればどうやらすっかり別の場所に跳んでしまっていたらしい、思考が。

確かそうなる前は倉持とゾノが結衣のことを話していた。何かと話題になる人間ってのはいるわけで俺もそういう人種なんだとある程度の自覚はある。天才だとか生意気だとか高慢だとか青道高校野球部の主将であるとか。
所詮高校生の俺たちが持てる視野はたぶん大人が見れば狭いに違いない。そんな狭い視野の中であるから噂であるとか評判であるとか、そんなもんが広がれば俺たちはそれがすべてのような気さえしてしまう。視野が狭いだけなのだと知らずに。
だからいつか高校野球を出来なくなった時、振り返り見た自分たちはもしかすると凄い滑稽に見えたりする瞬間があるのかもしれない。そして願わくばその瞬間は今自分が欲するものすべて手にした自分に訪れればいいなどと、そう思う。


「で?結衣がどうしたって?」
「その話しは大分前に終わったっつの」
「今は?」
「沢村。なーんか最近アイツよそよそしくてよ、なんか隠してるっぽいんだよな」
「俺はなんも気ィつかんかってんけど、御幸は?っちゅうとこで話しが止まっとる」
「沢村ー?アイツ、隠し事出来る性格じゃねェだろ?」


日々球を受ける女房役としてすんなり答えた俺だが倉持は抗議するみてェに紙パックのジュースのストローを、ズゴー、と鳴らし飲む。
その様に、幼稚園の従兄弟が同じような事やっとったで、とゾノが真顔で指摘する。やべ、ツボった。

昼休みを利用したこの情報交換の場をクラスメイトが、野球部のトップ3会談、なんて笑う。すっかり定着したもんだ、まぁもう世代が変わってから季節が移ろいで野球はオフシーズンと言われる時期。不思議じゃあないか。


「で?結衣がなんて?」
「お前はそればっかかよ」
「今日俺のとこに来たって話しや」
「は?なんで?ゾノのことあんなに怖がってたじゃんか」
「ヒャハ!それいつの話しだよ。今じゃゾノのことは純さんの次ぐらいに頼ってるんだぜ?」
「へェー…」


お前とは比対照だな、と嫌なことを言う倉持の話しではいきなり休み時間ゾノのクラスに飛び込んできてゾノに飛びついてきたらしい。一体どうしたのかと慌てるゾノに代わり話しを聞いたノリが倉持に話したらしい。結衣が廊下で知らない先輩に話しかけられて、そのまま逃げてきたんだと。どんだけ人見知りだよ、それ。

それにしたって、


「面白くねェな」
「!」
「……おい」
「んー?」
「今お前、何言うたか分かってんのか?」
「おー、分かってる分かってる」
「………」
「………」
「ぶはっ、なんだよ2人揃ってその顔。男にんなジッと見られても嬉しくねェなー」
「や、やかましい!!お前がいきなりブッ飛んだこと言い出すからやろが!」


ムキになって怒るゾノに、ごめりんこ、なんて言ってみてもまぁ火に油。別に気にもしていない俺がゾノに胸倉掴まれながら、はっはっはー、と笑っていれば倉持は眉を顰め俺を観察しているようだ。
どうせコイツには分かっちまうんだろう、俺が何も言わなくとも。ならもうまどろっこしい事は止めだ。元々腹に抱えているのは得意じゃねェし、そうやってずっと野球を続けてきた。歯に衣着せねェ俺の物言いにどれだけいびられてきたか。
それでもどうしようもねェよな、こういう感情だけは悲しいとか怒りだとかそういうもんよりもしつこく根を張るのだと野球が俺の中心になった時から嫌というほど思い知らされているから。


「俺、好きだわ」
「……は?」
「だ、誰をや?」
「なんだよゾノ。そう聞く時点で察しがついてんだろー?」


ししっ、と笑いながら呆然として力の抜けたゾノの腕を掴まれた胸倉から払いながら言葉を続ける。
お、倉持。さすがさすが。額に手当てて溜め息ついちまって。うんざりしてるとこ悪ィけどまだまだ。


「結衣のことな」
「は、はあ!?お、お前…!そない冗談は好かへんぞ!?」
「良かったなー。冗談じゃねェよ」
「阿呆!冗談にしとけや!」
「なんだよ我が儘だな、ゾノ。冗談は好きじゃねェんだろ?」
「お前捕手やろが!人の心の裏の裏探るのが仕事やろが!」
「裏の裏って結局表だから」
「揚げ足取んなや!!」
「これも捕手の仕事だろ?」
「っ……洒落にならへんぞ!!小嶋は…」


亮さんの彼女だ。
そう言いたかったに違いないゾノは俺の胸倉をまた掴み引き寄せ睨み歯を噛み締めながらグッと口を噤む。
前にゾノが何を勘違いしたのか結衣に俺の邪魔になることをするなと言っていたがそうでなければ何をしていいとも先輩の彼女なだけに言うわけにもいかず。もうすでに結衣ともかなりの顔見知りなわけで、他人事じゃいられねェゾノは今頭の中で今目まぐるしく言葉にすべき事を選ぶことでグルグルと回っているんだろう。俺なんかと違ってなんでもかんでも言いたいことを言うわけじゃない。

そうしてゾノと向き合っていれば倉持が、はあ、と溜め息をついてから口を開いた。


「ゾノ、やめとけよ」
「!」
「どうしようもねェだろ、こういうもんはよ」
「せやけど…!」
「それに結衣をどうこうするつもりならわざわざ俺たちに打ち明けたりしねェんじゃねェの?コイツの性格上」
「はっはっはー!なんか褒められちった?」
「褒めてねェ!!調子に乗んな!!」
「ま、そういうわけだけど別に今までと何が変わるわけじゃねェから気にすんなよ」
「するわ阿呆!何が悲しくて、コイツ今嬉しいんやろな、なんて結衣と喋っとるお前見て複雑に思わなあかんねん!!」
「お気の毒様」
「なんやとー!!」
「う、うおっ。酔う。んな揺らすなってゾノ」
「お前がそないタマか!!」
「はっはっはー!」


うお、揺らしすぎ。ぐわんぐわん、とゾノに胸倉掴まれたまま揺らされるそれに笑いながらズレた眼鏡を直す。


「ま、心配すんなよ。恋愛だなんだにかまけてる暇なんてねェしそれは亮さんも同じだったろ?」
「あの人とお前を同じように見るのが無理だっての」
「それに結衣を見てりゃ亮さん以外みんな同性も同然に思ってるって分かる」
「あーそれな」
「とにかく傍においてどうこうしたい対象じゃねェってのは確かだからお前らに話したんだし気にすんなよ」
「え、偉そうに言うなや!!」
「それにお前らに限って俺と結衣とを取り持つようなことをするはずもねェしな」
「つかお前見事に避けられてるしな」
「あぁそういえばせやな。嫌われとるしな」
「おいおい、取り持てって頼んでもねェけど貶せとも頼んでねェよ」


コイツら失礼な結論に辿り着いて妙にすっきりした顔しやがって。

まぁ結衣と関係修復を望んでるわけじゃない。このまま結衣と拗れっぱなしであったとしても俺や結衣がどう変わるわけでもない。そう考えると結衣と俺の距離感なんてものは高が知れている。
自分で自覚して自分で傷付くとか俺って実はドM?……な、わけねェな。


はっはっは、と1人笑っていれば、気色悪いぞ、と本気で引いてるゾノの声に重なり机に置いていた携帯がバイブで震える。
お!、と先に気付いた倉持が、女か?、と小憎たらしく笑い俺の携帯を見る。


「……げ」
「お前な、人の携帯見るなりげんなりするのやめろよ」
「成宮鳴」
「げ」
「お前も同じ反応やないけ」
「なんだって?鳴」
「"写真寄越せ"ってよ」
「俺の?」
「ヒャハハ!いっそのことそうしてやれ。ゾノでもいいぜ」
「は!?ちょお、勝手に撮るなや!!」
「なんなら3人で撮って送ってやろーぜ!青道野球部トップ3っつータイトルで!」
「よし乗った。ほらゾノ入れよ」
「はあ!?なんで成宮なんぞに俺らの写真送らなあかんねん!!」
「アイツ、結衣の写真欲しいんだってよ」
「なんやと!?しゃあない、良い男に撮れや」
「文明発達の酷さはフィルター越しに現実を摘み取れるようになったことだよな」
「どういう意味やそれ?」
「ヒャハハ!ほら、撮るぜ!!」


勝手に知ったる俺の携帯の倉持によって俺と倉持、ゾノの3人で撮られた写真は倉持によって、青道野球部トップ3、というタイトルをつけて鳴に送られた。
その鳴からすぐに、稲実野球部トップ3、という写真が送り返されて倉持とゾノと3人でひとしきり笑った。
クラスの女子が、男子って本当にいつまで経っても子供だよね、なんて使い古された言葉を笑いながら言う。そうだよ。出来ればずっと高校野球をやっていたいとさえ思う。野球は俺の中に入ってきてから常に俺のど真ん中に在って、嫉みそねみの類または生意気だという煩い声を取り除いてしまえばただ単純に、好き、という想いが残る。
結衣にしても同じだ。
亮さんの彼女。部活の馬鹿可愛い後輩。俺と確執を抱える今。そんなものすべてを取り除けば単純な、好き、というものが残ったわけだ。


「!……おいおい」


今日の練習中も結衣は俺の前に顔を出さなかった。先日貸した服だってノリを通じて返ってきた。
よくもまぁ器用に避けるもんだと呆れ自嘲気味に笑いながら夜、練習も終わり風呂前に自主練をしようとバッド片手に外に出れば自販機前のベンチに結衣の、眠っている姿を見つけ掠れた声で紡いだ。
おいおい、なんだこれ置き餌?俺誰かに釣られそうになってんのか?これ。


「結衣サーン」


はい、反応なし。
器用な格好で眠りながらもその手にはボール。横にはボールが入った籠。下に落ちてる布巾。あぁ、そうか。ボールを磨いてくれてたってわけか。


隣に座り俯きがちの顔を覗き込む。
首に巻かれたマフラーに少し隠れているものの頬が空気の冷たさで赤くなってる。こんな寒いとこで眠れるってどんだけ疲れてんだよ。


「……好きだよ」


まぁこれぐらいならば許されるだろう、独り言だしな。
俺の想いを聞いたところで結衣は混乱するだけだろ。そんな姿も見てみたいは見てみたいがやっぱ野球を置いて他が勝ることはない。

おもむろに携帯をズボンのポケットから取り出しあまり使わねェ携帯カメラを起動。
内カメラで俺と眠る結衣を写し撮ったそれにあるタイトルをつけて鳴に送り付けてやった。

さーて。素振りでもやるか。
そうしてその場でバッドを振る俺の元へ亮さんが来て、ありがとね、と寛大にも礼を言い結衣を連れていくまであと素振り51回。



結論を話すことにした俺の話し
(なんだよ鳴、留守番に入れろよ)
《そっちこそ出ろよ出れるなら!なんなの!?》
(はっはっはー!お前に費やす時間が勿体ねェ)
《ムカつく!!そんなん俺だって同じだし!むしろオイラの方が忙しいし!てんやわんやってやつ!》
(じゃあさようならー)
《あー!ちょ、待てって!なんなんだよさっきの写真!!》
(タイトルのまんま)
《ふっ、ざけんなよ!"羨ましいだろ?"ってなんなわけ!?》
(え?羨ましくねェの?俺がお前の立場だったら羨ましくてしょうがねーけど?)
《な…!お、おま…もしかして…》
(はっはっはー!さあな。とりあえず結衣の写真はあれで我慢しろよ)
《出来るわけないし!もう絶対に次会ったら一緒に撮るって決めたもんね!そしたら一也に同じタイトルつけた写真を…》
(はい、終了ー)
(……言いたいことを言って一方的に切るとか性格悪いですね、御幸先輩)
(はっはっはー!なに降谷、んな褒めんなよ)
(………)
(はい、無視!)


―了―
2015/05/03




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