Hey!please say!!-2-



"じゃあさ、どこを好きになってくれたの?"
思えば意地悪な質問だったなぁって今は思う。まぁその時の俺としては本当に純粋にそう思ったわけだし知りたかったんだ。好きだと言われて嬉しくないわけじゃないよ。ただ、どこが?、とそれを求めるのはそれを受け入れる最低条件みたいなもんだと俺は思うんだよね。1度だけ女の子と付き合ったことがあるけれど、結局定型文みたいな言葉に始まり定型文みたいな言葉に終わった。
野球してる姿が格好良くて、と期待を込められた目で見つめられて。
私と野球どっちが大事なの?、そう失望の目を逸らされて。
なら君は俺のどこを好きになったんだよって、そんな風に皮肉って最初と同じ言葉を返すことぐらいは許してほしい。勝手に期待して勝手に失望。なんだよそれ結局は俺のこと何も見てなかったってことじゃん。


「鳴」
「………」
「めーい」


だからさ、俺は。
運命なんてものはやっぱりないって思うしきっと自分から好きにならないと恋愛ってものは出来ないとその時に思った。
心地好い声が鼓膜を震わすのをもうちょっと聴いていたくてわざと目を閉じて神経を集中させる。もっともっと。もっと呼んでよ、俺を。


「こら」
「いたっ」
「寝てたら駄目でしょ?」
「へへっ、おはよう亜依さん」


半分以上眠りに足を突っ込んで微睡んでいたのは事実だから本当は目の前のこの人がどきりとするような笑顔を向けたいのにへにゃりと顔に力が入らない。そんな俺に、もう、と言いながらも俺に飴をくれる彼女は白いブラウスの袖にだって負けないくらい肌が白くて俺はイチゴミルクの飴を口に入れて転がしながら目を細めた。グラウンドじゃ見れない白さ。不健康じゃなくて、健康的な。白さの下に温かみを感じる暖色を伺わせる笑顔が俺は好きだ。

須藤亜依さん。
雅さんの幼馴染みで3年の先輩で、俺の好きな人。


「大丈夫?集中出来そう?」
「ん。平気」
「眠たくなったら仮眠もありだから言ってね」
「ありなんだ?」
「眠たいまま勉強するよりは頭がすっきりして集中出来るから。眠たい?」
「んー…それって俺が頷いたら勉強会終わっちゃう感じ?」
「ううん。15分後にはまた起こすよ。寝過ぎても効果はないから」
「そうなんだ。じゃあ亜依さんは待っててくれる?起きたら雅さんが居た…とか嫌なんだけど」
「ある意味目が覚めるかもよ」


くすくすと笑う亜依さんに目を細めれば、冗談、とそう言いながら伸びた手が俺の教科書を閉じた。15分ね、とふわりと笑われるとさ、目を閉じるのが惜しくなっちゃうんだけど。


「亜依さんは寝ないの?」
「これでも一応今年受験生ですから。テストは気が抜けないの」
「ふうん…」


ねぇ亜依さん。きっと今俺が思ったことを口にしたら冗談にされて笑われてしまうから言わないけど本気だよ。
受験なんてしなくても1年待っててくれたらドラフト1位でプロに乗り込んで俺と結婚しよ。


「亜依さん」
「うん?」


図書館へと亜依さんを誘って勉強を一緒にすることにした。夏を迎える前に逃げられない期末テストにかこ付けてでしか誘えないって時点で俺の弱気さと現状亜依さんとの関係をよく表してる。

呼びかけながら机にぺたりと身体を倒す。瞼を閉じるその寸前まで亜依さんを見ていたいから…なんてさすがに言えないや。俺は本音を冗談にされるのが怖いと思うほどこの人が好きだ。
どこがって言われたら、山ほどあるから挙げきれないけど、って俺は答える。

初めて会った時に何を話したっけ?
とにかく緊張しちゃったのが自分でもおかしくて仕方がなかったけど平静ではいられなくてガチガチになる俺を雅さんがまるで新種の動物を発見した動物学者ってこんな感じかなって顔で見てて、坊やだな、と笑うカルロス達がいて、少し前に雅さんに借りたノートを返しに来たのだと言って自己紹介してくれた亜依さんは、グラウンドで見るより幼く見えるね、と喜んだらいいのか微妙な言葉を俺に言って。
女の子の前でカァッと顔が赤くなるのは初めてだった。いや女の子って言ったら違うかもしれない。クラスの女子よりずっと大人に見えたし声や仕草の一挙手一投足は面白いほど彼女に囚われて思わず口にしてしまったんだ。


「運命って、信じる?」
「!……」


こんなこと言ってたら、寝ぼけてるの?、なんて言われるかな?俺を見つめてぱちりと瞬き1つするのだって見逃さないようにする俺にフッと亜依さんが微笑む。


「初めて会った時もそんな事言ってたね」
「うん。じゃあその時亜依さんがなんて答えたかも覚えてる?」
「どうだったかな?忘れちゃった」


ほら、こんなとこだよ。
こんな風に何もかも見透かしたみたいにすぐにバリアを張るから簡単に、切り札がないまま踏み込めないんだ。

にこりと笑う亜依さんに、そう、と俺も笑いかけて目を閉じる。あーぁ、まだ駄目か。これでも結構アピールしてる方だし顔だって悪くない方だと思うし。強豪の野球部でエースで、箔だって他の奴らよりはあると思う。けどそんな俺を選ばない時点で亜依さんにとってそういうものは無価値であると分かる。まだまだ、勝負出来ねェなぁ……。

色々考えてたら眠れなくなった。
眠気はすぐそこにあるはずなのに、亜依さんとこうして居られる時間は15分の睡眠で削るには貴重過ぎる。
エースが追試なんかで練習時間削られるのは有り得ないってことでこういう時間を持ったけどさ、やっぱり俺は期末テストが終わっても稲実のエースで、亜依さんが卒業したってエース。難しいよ本当、色々さ。


「鳴」


……あ、亜依さんが俺を呼んでる。
いいよなぁ…この声。赤ん坊はお腹の中で母親の声を聴いてるから生まれてからも聴けば分かるんだってそういうけど、それなら俺は生まれて来るずーっと前から亜依さんの声を聴いてたりして。なんてね。

目を瞑り亜依さんが今だけ俺を独占させてくれる時間を満喫する。


「鳴、寝ちゃった?……そうだよね。疲れるよね。部活は休みでも朝練や自主練はするんでしょう?」
「!」


う、わ…!!
思いがけなかった頭への優しい感触。一瞬頭の中が真っ白になって把握するのが遅くなってしまってよくびくりと身体を跳ねさせなかったものだと自分を褒めてやりたいぐらい。

ふわりと俺の頭を撫でる亜依さんの手。髪の毛の感触を確かめるように時々俺のそれを優しく握ったり指で梳いてみたりを繰り返しながらぽつりぽつりと紡がれる亜依さんの本音。


「1つしか違わないのに…こうも差ってあるものなんだね。鳴が正念場の時は私も正念場。鳴の時間が空く時はそうなさそうだし…社会人になれば関わりもそうなくなっちゃうのかな……」


図書館の中だから小さな、本当に小さな声だけどちゃんと聞こえる。いや俺は亜依さんの声ならどんな場所だって集音して聞き取る自信はあるけどね!

ちょっと待ってよ。
それってつまり……と、思っていい?もしそうだとしたらまさにたかが1つされど1つ。俺が気付かないくらい上手にごまかしてきたってこと?


「鳴の邪魔だけはしないようにしないと」
「!」


俺はいつも思うんだ。告白してくる子が、野球の次でもいいの、なんて言葉に、なんだよそれ、って。
結局それって本当に俺が欲しいわけじゃないんじゃん。ぶつかるのを避けてるだけ。欲しいのは俺じゃなくて、稲城実業野球部エースという肩書きを持った彼氏ってステータスだけなんだろ、って。
でもさつまりそれは同時に俺だってその子にそれ以上は望んじゃいなかったってことなんだ。

野球より、


「亜依さん」
「!め…鳴?起き…たの?」


俺を見てよ、って。

依然俺の頭を撫でる亜依さんの手を掴みハッと息を呑んだのを聞きながら顔を上げた。なんだ、こんなに分かりやすかったんだ本当は。亜依さんは一瞬だけどしまったみたいな顔をして動揺に瞳を揺らした。起きたの?そう問い掛けた笑顔だって、駄目だよそれじゃ亜依さん。引き攣ってる。

おもむろに身体を起こして、ううん、と否定しながら改めて亜依さんの手に俺の指を絡めるようにして握る。するりと肌に感じる柔らかさにカッと身体の芯が熱を持つ。俺の目にはきっと恥ずかしいぐらいの愛おしさが移って亜依さんの目には見えるに違いない。


「亜依さん」
「うん?」
「運命って信じる?」
「!」
「言ってよ、また。あの時みたいに」
「め、鳴」
「そうしたら俺も言える。踏み込める。もう戻らないし離さない」
「っ………」
「ほうら!お願い!!」


ズィッと顔を近付けて亜依さんの瞳を覗き込む。少し色素の薄い瞳は俺の姿がはっきり見えてゆっくりと俺に囚われてくれるような、そんな錯覚を起こす。

俺とは違う柔らかそうで細い長い髪の毛。白い肌の下に見える温かさを感じさせる赤み。緊張したようにぷくりとした唇が窄められて、あぁもう待ちきれない。こんな風に言葉を交わしたわけじゃないのに気持ちが確かに通じたなんて、バッテリーを組んでる雅さんとだってなかなかないよ。

だから言って。


「…運命って信じられる出会いがあれば信じるよ」
「……うん俺も。俺は亜依さんとの出会いが運命だと思うよ。ねぇ亜依さん、俺と運命共有してよ。絶対に大切にする」


さて。
こうして実質告白した俺と亜依さんとの恋がどうなったか。


「鳴」
「………」
「めーい」
「ん」
「起きた?もうすぐ行かなきゃでしょ?」
「えぇー…。亜依ちゃんがベンチにいてくれたら喜んで行くんだけど」
「無茶苦茶言わないで。さすがにプロ野球のベンチに入れません」
「そんなの分かってるよ。けどさやっぱりいたらなぁって思うんだ。あーぁ」
「そんな風に言わないで。今日が優勝出来るかどうかの大一番でしょ?」
「まあね。しかも一也んとこと!絶対負けねェからテレビの前で待機ね!!終わったら即効電話する!」
「うん。いってらっしゃい、鳴」


そんなの運命なんだから、結果は最初っから決まってたんだよ。



Hey!please say!!
「よう、久し振りだな」
「うん。雅、元気?…って元気か。日本シリーズで鳴と戦うなんて楽しみだね」
「まあな。こっちも負けねェぐれェいい投手はいる。負けてやるつもりはねェよ」
「そっか。どっちも応援してる」
「いいのか?んなこと言ったらどっかの馬鹿がぶんむくれるんじゃねェのか?」
「まさか。鳴だってもう大分大人になっ…」
「あー!!」
「………」
「………」
「ちょっと雅さん何人の彼女に粉かけてんのさ!!もー!本当に油断なんない!!幼馴染みなのは分かるけどそういう時は俺を通してよね!!」
「どこが大人になったって?」
「えぇっと…」
「あ!亜依ちゃん、この後ホテルのスイートルーム取ってるから泊まろうね!!」
「…こういうとこ?」
「無駄だな、限りなく」


―了―
あとがき→
2015/10/05





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