Hey!please say!!-1-



運命なんてものはさ、ないんだよ。
だって俺が野球する事も投手になった事も稲実を選んだ事も全部ちゃんと俺が選んだんだ。しんどい時もあったし痛い時もあった。オフの冬合宿とか、もう死ぬ!、って1日に何度も思うし飯は死ぬほど食わされるし試合に負ければ死ぬほど悔しい。ただ不思議と"もうやめてェな"とは1度も思わず俺の中には常に野球ってもんがあって、それは多分運命なんて夢語りのような言葉じゃなくて宿命なんだと思うんだ。


「ね!雅さん!!」
「暢気に持論展開してんじゃねェ。早く投げろ!」
「えーいいじゃん。雅さんはどう思う?運命について」
「なんなんだ朝からてめェは」


はぁ、と重たい溜め息をついてブルペンの約18メートル先で座りキャッチャーミットを構える雅さん、原田雅功という1年上の稲城実業高校野球部主将で4番正捕手が、鳴、と俺を呼び投球を促す。俺っていうのはつまり同校野球部2年生エース関東No.1左腕成宮鳴のことだ。

座って構えるだけで、ああも安心感を与える捕手もそういないよね。

構えたグローブで緩む口元を隠して、いくよー、と投球フォームに入り投げ込んだ球がミットを気持ち良く鳴らす。雅さんの隣に座る樹がそれを見てしばらく目を奪われるように固まるのが凄く気持ちいい。ほらほら。井口さんが、投げ返せ、って怒ってるよ?


「……悪くねェな」
「えぇー…。そこは褒めてほしかったなぁ。俺、褒めて伸びる子なんだけど?」
「甘ったれんな。朝っぱらから運命だ宿命だと腑抜けた事言ってやがるから球に力が乗らねェんじゃねェかって思ってたぐれェだ」
「心配性だなぁ、雅さんは」
「てめェが言うか」


ったく、と眉間に皺寄せて球を返してくるそれを受け取って、だってさ、と話し出す。


「貰ったラブレターにさ」
「そういう話しは練習が終わった後、鏡を見て自分の顔としてろ」
「冷たい!!」
「うるせェ!!場を弁えやがれ!」
「ちぇ、雅さんが最初に聞いてきたんじゃん」
「あぁ悪かったよ。想像以上にどうでもよかったからもう興味はねェ。だから練習に専念しろ」
「分かったよ、もう」


俺も別にそこまで囚われてるわけじゃないよ。ただ話したこともない相手にいきなり、初めて見た時から運命感じてました、なんて書けるものかなって。そこには俺の理解が及ばなかったもんだから不本意だけど心に残った。そういう意味じゃあのラブレターの差出人の思惑通りなのかもしれない。
運命?人を好きになるのが?なんだよそれ、つまんねェじゃん。じゃあさじゃあさ、ってことはだよ?最初っから恋する相手は決まってて結果も決まってて、結婚する相手も決まってるわけ?それないから。運命なんてもんに、俺はやれないね。本当に俺が好きなら運命なんて言ってないで作りに来いって思うよ俺は。
運命じゃなくて、天変地異が起こるような奇跡をさ。


「ラスト1球。チェンジアップ」
「了解」
「低めにな」
「分かってる」


本気なら俺に野球より夢中にさせてみなよ。そうすることが出来たら、それはきっと運命だよ。

練習が終わり各々食堂で飯を食っていれば、雅ー、と食べ終わり食堂を出たはずの先輩が俺の隣で飯を食っていた雅さんを、呼び出し、と呼ぶから食堂は一気にざわついた。けど、須藤だぜ、と続けられればそのざわめきも3年の先輩たちが抜けて少し静かになる。あぁなるほどな、みたいな顔をして、なんだよビビらすな、なんて言って。


「行ってくる。鳴、残すなよ」
「はあーい」


雅さんの飯はまだ半分ぐらい残ってる。これなら俺のおかずや飯を少し足してもバレな……、


「痛い!!」
「見えてんだよ、鳴」
「痛いよ!吉さん!!」
「当たり前だろうが。げんこつ落としたんだから」
「酷い!横暴!後輩虐め!」
「てめェ…!」
「まぁまぁ」
「翼くん!!聞いてよ!吉さんが!」
「知ってる。見てたしね」


苦笑いを零す翼くんが、はいはい、と吉さんと俺を窘めるように言って雅さんが座っていた椅子に座る。もう食べ終わったの?、と聞けば、とっくにね、だってさ。やっぱ1年違うと身体の作りも食う量もこなせる練習量だって違う。リトルやシニアじゃ感じられなかった1年がどれほどデカいかを嫌というほど実感した高校野球。
……ゲッ。翼くん、俺が雅さんの皿に乗せたおかずや飯全部戻してるじゃん!恨めしげな目でそれを見ていても吉さんには、ヘッ、とせせら笑われるだけだし翼くんはこう見えてここぞとばかりに目力が強くて結局食べるしかなさそうだ。


「ねぇ、翼くん」
「鳴てめ、先輩を…」
「なに?」
「お前も呼ばれてんじゃ…」
「雅さん呼び出したの誰か知ってるの?」


しかもこんな時間、と俺が見遣った食堂の時計は7時半を回ってる。わざわざ寮まで来て相手が女だったらもう確実じゃん。彼女。でも先輩たちからの反応じゃたぶん男なんだろうし俺は初めてだけど今までも何回もあったんだろう。

俺を無視すんな!!、と怒る吉さんは置いといて。んー、と訳知り顔でにこりと笑う翼くんの言葉を待ちながら飯を口に詰め込む。うー…胃がいっぱい。


「須藤は須藤だよ。雅とは幼馴染み」
「ふうん。その人は野球やらないんだ?」


雅さんと幼馴染みなんて聞くとどうしても雅さんの隣に野球ユニフォームを着る姿が頭に浮かぶんだけど。

そんな事を考えながらあんまり好きじゃないおかずを飯と一緒に無理矢理流し込む作戦の俺を余所に視界の端では吉さんと翼くんが顔を見合わせているのが分かって、ふぁに?、と咀嚼しながらそれに顔を向ける。


「お前、なんか勘違いしてねェか?」
「ふえ?」
「須藤は須藤亜依」
「!」
「女の子だよ」
「はあ!?」
「あぁてめ…!飯粒飛んだじゃねェか汚ねェ!!」
「なんでそんな面白…じゃなかった。興味深い事黙ってたのさ!」
「無駄だよ鳴。どんなに言葉で取り繕っても顔が物語ってる」


だってそんな事放ってなんておけないから!!一目見なきゃ気になっちゃって睡眠どころじゃない!!

呆れたように笑う翼くんと何かを言おうとしたものの諦めたらしく溜め息と、ちゃんと食えよ、とだけ残して食堂を出ていく翼くん。それに構わず残りの飯を全部掻っ込んで、ほひほーはま!!、と手を合わせてトレーを手に立ち上がればほぼ同時に立ち上がったのはカルロと白河、それに山岡に矢部。なんだよみんなも興味あんじゃん!

ニッと笑えば誰からともなく食堂を出るために足を進める。ほどほどにな、と声を掛けてくるのは福ちゃんで、一緒にどう?、って誘ったんだけど肩を竦められただけ。まぁ福ちゃんがこういう時に顔を出すのは考えづらいかー。


「わざわざ寮まで来るんだ、こりゃ見るしかねェよな」
「だよね!雅さんに会いに来る女の子とか!」
「お前らと一緒にしないでくれる?別にからかおうとか思ってないし」
「でも興味はあんだろ?同じじゃねェか!」
「ちょ、静かにしろ!あれじゃね?寮の前で…」
「え、マジ!?カルロ!!お前デカいんだから後ろ回れよ!!」
「あーハイハイ。鳴、ちゃんと飯食ったか?身長伸び……」
「伸びてるし!余計なお世…ふぐっ!」
「静かに」
「むぐぐぐっ」


分かったから!苦しいんだよバカ白河!!

グッと俺の口に手を当てて言葉を封じる白河は他の3人と一緒に寮の出入口から暗がりへと目を凝らす。なんだよ、と不満はあるものの見つかったら元も子もない。せっかく雅さん達は電灯の下にいるわけだし…あ、ちょ…!雅さん邪魔!!雅さんのでっけェ姿のせいで例の幼馴染みが見えない!!

そもそもさ、雅さんも隠さなくってもいいじゃん。そそくさと食堂から出て行っちゃってさ。まるで聞かれたくないとばかりの素早さだった。雅さんの幼馴染み…?ぷぷー!駄目だ!雅さんと同じような顔が浮かんじゃって笑いが込み上げる。


「ていうか重い!!」
「仕方がねェだろ。見えねェんだからよ」
「あ!?つーかなんか抱き締めてねェか!?」
「マジかよ!?」
「お前ら重い……」


寮の出入口の見つからないようにと寄った少ないスペースに詰めて1番下に白河、その上に俺。次にカルロスに山岡と矢部で様子を伺ってるわけだけど誰もが我先にと状況把握しようとしているから他に気遣いなんてあるわけない。自然体重は下に掛かって……ちょ、もう限界……!


「っうわぁっ!!」


どしゃり、とまるで漫画みてェに崩れ落ちて上と下からの衝撃に挟まれて俺たちは呻く。痛すぎ…!


「オイ」
「!」
「……お前ら、何やってやがる?」
「あ……」


痛みに歪めた顔を上へ向ければ、ずうん、と腕を組み佇む雅さんと。


「あはは!みんな、大丈夫?」


なんだよこれ雅さんと幼馴染みになるなんて運命しか有り得ないじゃん。
ってぐらいの美人が俺を見下ろし楽しげに笑った。


「えぇー!!」
「うるせェぞ鳴!!」






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