2人の未来へ激励!![1/2]




野球部の部員が暮らす青心寮が女人禁制というのは周知の事実。

それは暗に野球部の人達と接触を持ちたがる女子がたくさんいて、その女子たちが部員の方々にそれを理由に寮から頑なに遠ざけているからだというのは私も彼と付き合うようになって分かった。
ただでさえ人の目を集めやすい、加えて強豪校の野球部なのだからそういう素行などにも気を配るのは当然で、きっと義務なのだ。そうして生徒の模範で在ることが。


だけど私も今日という今日は譲れなかった。青心寮の入口まで足を運びもう1時間は経った。陽も傾いてきた。
5月も中旬、連日夏日が記録されるこの頃は陽の傾きは6時くらいを示す。西日はきつくて、日焼け止め塗ってないな……、なんて思いながら携帯に何度目を落としたかな。
分かっているけど。
返信が望めないからこそこうして迷惑承知で寮の前まで来たのだから分かっているんだけど…それでもやっぱり心が寂しくなってしまうのはきっとどうしようもないんだろうけど。

ふぅ、と溜め息をついた時寮の方がガヤガヤと賑やかになった。
練習終わったのかな!?、と途端に心が浮き上がり踊るんだから私ってすごい現金だ。返信、もうすぐ来るかな……!?


「あれ?何か用?」
「っひゃあ!!」


び、びっくりした!思いがけなかったし全然気配も感じなかったし!!

思いっ切り跳ねた身体を縮こませて振り返れば寮の入口からこっちを伺ってる1人の部員さん。キャップを斜めに被って縁の太い眼鏡。すっげェ跳ねたし!、とお腹を抱えて笑う意地悪さにすぐにピンときた。


「御幸、一也さん?」
「ん?そーそー。えぇっと…」


眉を寄せて記憶を探ろうとしている素振りに慌てて、あの!、と口を開く。


「沢村くんからよく話しを聞いていて…」
「沢村?」
「は、はい」
「あーなるほど」


1年だね、と御幸先輩は私のブラウスに刺繍される校章の色にそれを確認したようで頷きながらにやりと笑う。


「なに?沢村俺の悪口言ってる?」


メールの返事まだかな……、なんて考えていたから御幸先輩の言葉に何の気無しに、はい、なんて返事をしてしまったけど、アイツ…、と呆れたように笑ったのを見てハッと気付く。つ、つい…!!


「悪口ばっかりじゃないです!イケメンだけど性格悪いとか、性格悪いけど捕球は最高だとか、性格悪いけど尊敬はしてるとか!」
「うん、50%は悪口だって分かったわ」
「あ……」
「はっはっは!いやぁ、なるほど。沢村の友達って感じな」
「え、あの…私、」


ただの友達じゃないんです。
そう継ごうとしたのだけど御幸先輩の後ろから、ひょこ、と顔を出したまた1人、先輩だろう人に口を噤んだ。


「なんだよ御幸。また女か?」


ま、また!?確かにイケメンって話題の先輩らしいけどまた!?


「おいおい、嫌な言い方すんなよ。まるで俺が取っ替え引っ替えしてるみてェだろうが、それじゃ」
「語弊はねェ」
「語弊はなくとも俺がチャラいって誤解が生まれるっつの」
「心配すんな。それも誤解じゃねェから」
「ひっでェなー」


練習着姿のこの人もレギュラーなんだろうか?話し方からして御幸先輩ときっと同級生。目つきは怖いけどさっきからチラチラと私を伺う仕草は少し気遣わしげでもあって、もしかしたら御幸先輩を前に余計なことを言ってしまったと気を使ってる…?
そんなんじゃないんだけど…御幸先輩にはまったく用がない。

んー…。前に彼が描いて見せてくれた野球部の皆さんの似顔絵を思い出してみる。
御幸先輩は眼鏡だけだったけど……この先輩は髪の毛が立ってて、釣り目で……。


「倉持先輩、ですか?」
「へ?」
「お?もしかして倉持に用?隅に置けねェなー、倉持くん」
「う、うるせェ!!」
「あ!ち、違います!ごめんなさい!倉持先輩のことも沢村くんからよく聞いてて…」
「沢村ァ?」
「1年なんだってよ」
「あ?…あー、本当だ。もしかして沢村に用か?」
「はい!」
「ちなみになんの?」
「御幸お前…デリカシーねェのかよ?」
「いいだろー別に。で?なんの?」
「え、えっと……」


にっこりと笑いズィッと顔を近付けてくる御幸先輩に1歩後ずさりながら自分の中でも、なんの?、と反芻してみる。

な、なんのってそれは…言わなきゃ駄目なのかな?やっぱり野球部って先輩後輩の上下関係が厳しそうだから逐一報告しなきゃならないみたいなのあるのかな?
でも彼はいつも、御幸の奴!、って唸ってるし……でも3年の先輩のことはいつも尊敬してるって嬉しそうに話してて、私はそんな沢村くんの嬉しそうで誇らしげで楽しそうな笑顔が大好……


「っ……」
「お、真っ赤」
「あんま虐めんなよ…。虐めんなら沢村な」
「え!?それはやめてあげてください!」
「はあ?」
「はっはっは!倉持、敵だな。敵」
「うるせェ御幸!!大体お前はいつも……いでっ!!」


えぇ!?いきなり倉持先輩の頭が沈んで、倉持先輩は痛そうに頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
いてェ…!、と呻く倉持先輩に唖然としていれば、はっはっは!、と笑う御幸先輩にも同じように悲劇が襲ったらしく倉持先輩の横に頭を抱えてしゃがみ込んだ。
な、なに!?


「お前ら何やってんの?食堂でビデオ観るって言ったよね?遅いからわざわざ来てやったんだけど」
「す、すんません…!」
「面白そうだったんでつい」


ピンク色の髪の毛の、小柄な男の、きっと先輩なんだろう。構えた手は御幸先輩と倉持先輩の頭に落とされたようだから。

にこりと微笑んではいるものの御幸先輩方は焦ったように立ち上がってる。だから、なんか怖い、と思った私は間違いじゃないと思う。
ていうか御幸先輩、面白そうって…。


「…誰?」
「え…あ!須藤亜依っていいます!沢村くんに用があって…」
「ふーん…」
「なんか俺に対する態度と違くね?」
「は?当たり前だろうが。なんで亮さんとお前が同等なんだよ。有り得ねェ」
「あ……お兄さん?」
「!」
「え?俺?」
「お、まえ…。……あーもういいわ。疲れた」


はあ、と溜め息をつく倉持先輩と、ししっ、と楽しそうに笑う御幸先輩。
ピンクの髪の毛の先輩、もといお兄さんの話しを聞いたのはもちろん沢村くんから。
糸目で小柄で、妙に威圧感があるという同じ学年の小湊春市くんのお兄ちゃんだから"お兄さん"

沢村くん、本当毎日楽しいんだろうなぁ……。初対面の私でも分かっちゃうくらい、毎日話してくれるもんね、野球部のことを。


「亮介、どうした?……と、女!?お前にか!?」


なんて考えてるとまた新に1人。
ヒゲ生やしてるし怖いし声大きいしもしかしてこの人が沢村くんの話してくれた伊佐敷先輩!?


「うんそう」
「マジか!!」
「ヒャハハ!純さん、違うんすよ。沢村に用があるみてーで」
「沢村ァァ!?アイツ、田舎に彼女がいるんじゃねェのか!?」
「え……?」
「あ……」
「純さん、それは言っちゃヤバイんじゃ…」
「馬鹿」


ドス、と伊佐敷先輩らしい人のお腹にパンチを食らわす小湊先輩。気遣わしげに目を向けてくるのは倉持先輩で、御幸先輩は私の様子を伺ってる。
伊佐敷先輩だけは、あ?、と眉を顰めて訳が分からないとばかりに不満そうにしていたけど私の顔を見てあからさまに、やばい、といった風に目を見開いた。

それだけで沢村くんとこの先輩たちがどんな会話をしたのか、ぼんやりと分かってしまった。私は今どんな顔をしているんだろう。
彼が廃校になった長野の中学の出身で、その中学での野球部の仲間をとても大事に想っていると話したのは聞いたことがあるけどそんな子のこと…聞いたことなかった。
青道に入学してまだ1ヶ月半。知ってることより知らない方が多いのは当たり前だし仕方がない。
それでもやっぱり突き付けられた現実が、どうして今日なんだ、って……切ない。


「あ、の…すみません、練習中に…。えっと…ビデオ観るんですよね」
「あー…おい、あのよ…」


気まずそうにされるのも辛くて、何かに縋りたくて胸元で手を握り締める。一歩彼らから後ずさったのはきっと現実を改めて突き付けられたくなかったからだと思う。
伊佐敷先輩が気まずそうに何か言おうとしてくれたけど私は首を振ってそれを拒絶した。


「そ、それから沢村くんに伝えてもらってもいいですか?」


ズキズキと痛む胸のそれに耐えて声を絞り出せば少しだけ震えた。
それを聞いて眉を寄せ気遣わしげにする先輩たちの中で御幸先輩だけが、いいよ、そう言ってニッと笑った。






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -