第弐話
「いぎゃあよえあkはfすt√b*uklじゃnfr!!!!!!!!!」
パニック!!! べろんと、頬を舐められた瞬間吾の中の何かが壊れたようじゃ。
「あじぇhyふghfy jmぁあうlgじゃfdんu*bo!!!!!!!!!!!!!!」
両手をバタバタさせてとにかく逃げろ、逃げるのじゃと主に叫んでいるのじゃが、言葉にならん!!
怖い!!
なんなんじゃああああこのあやかしいいいいいいいい!!
怖すぎじゃ!!
鬼の顔とか凶悪なものしか感じぬ!!
吾は美味しくないのじゃあああああああ……!!!(泣)
「ああ、もう……」
「にえhufふあjguっ!!!」
足がガクガクして、涙が勝手に零れて、訳の分からん音しか口からでなくて、今にも腰が抜けそうじゃ。
ああ、はは様とと様……吾は食われてもよいからあの綺麗な主だけはお守りくださいなにとぞなにとぞなーむー。
「あ、あ……主、主は逃げ……!!」
やっと声が出た!! そう思って吾なりに真剣に逃げろと、主に言っているのに主ったらすたすたと吾の方に歩いてくるものじゃから吾はもう慌てて慌てて。
なんで来るんじゃ逃げろと叫ぼうとした吾の口を、しかしすっと音もなく近寄った主の指が塞いだのじゃった。
「ちょいとお黙り、小娘」
ふにっと、唇に触れた指は、ちょっと冷たかったのじゃ。
「……………………!!!!」
「大丈夫だから、ちょいと落ち着きよ」
でも、目は、目は優しかったのじゃ。
「ぬし、ぬしいいいいい……(泣」
「大丈夫だって言ってるじゃないのさ。泣くでないよ、娘」
「じゃって……」
早く逃げないと、食われて死んでしまうのじゃ。
主が死んでしまうのは、嫌なのじゃ。絶対、嫌なのじゃ。
「しかし、今日は一段とお綺麗で」
極限状態で吾が綺麗な主の指に縋っていると、主はそう、後ろの牛鬼へと言ったのじゃった。
危機感のない、透き通るような声じゃった。
一瞬何を言っているのかわからなかったのじゃがな。
「お前さんが言うと一段と皮肉だねぇ、送り雀」
何言っとるんじゃあああああと思って慌てた吾の背後で、絶対零度の怒りが渦巻いとる気がしたのじゃった……。
え……これ、もう終わりじゃないかえ?
でも送り雀って呼ばれた主は微笑んでおって、訳が分からぬ。
何か秘策でもあるのかや……。
「いやぁ、姐さんには負けるさ」
「それが皮肉だってんだよまったく、かわいくないねぇ」
牛鬼はふんっと鼻を鳴らして、怒っているような、呆れているような感じじゃのに、主は依然として微笑んでおった。
それを見てか、牛鬼は一つため息を落としてから、吾の方を見て言ったのじゃ。
「おっと、すまないねぇ。ここまで怖がられるとは思わなんだ」
ばふん!!! そんな音がした瞬間、煙がぼわっとなって、いつの間にか、目の前の牛鬼は黒髪の長髪が美しい、おなごに変わっておったのじゃった。
(………………??????!!!??!?!)
何が起きたのか、さっぱりじゃった。
綺麗な、おなごじゃった。
綺麗な主には劣るのじゃが、黒い髪は腰まであって、頭には牛の角が……。
それを見た瞬間またびくっとなる吾を、しかしくすくすと笑いながら主が……。
「大丈夫さ。あてしの知り合いだからね。誰もが恐れるここらの番長。牛鬼の蘭子姐さんさ」
と言って、しかし……と、吾の顔を見た主は、
「ひどい顔だねぇ」
と、吾の顔を指差し爆笑するのじゃった。
「………………??!!」
吾はもう、半べそどころではなくてじゃな。
もうボロボロと大粒の涙が溢れてきてたのじゃが、それを見て主がまことに楽しそうに笑うもんじゃから、なんだか、ちょっとむっとなってしまったのじゃった。
「わ、笑い事じゃないのじゃ!!怖かったのじゃ!!」
と反抗すれば、それがまた主の笑いのツボを刺激するようじゃった。
「あっはははははははは」
「笑うんじゃないのじゃ!!主のあほう!!」
知り合いなら先に言ってくれたってよいじゃないかえ!!
未だに零れる涙を拭いながら、吾は、主の胸に拳をぶつけたのじゃった。