ぷろろーぐ

 貧乏神、それは、呪われた存在だと思っていた。

***


 要らないと言われ育ってきた。
 誰にも好かれず過ごしてきた。
 なんで居るのと存在を否定され、あっちに行けと嫌われた。
 なにゆえに、吾(われ)だけこんななのじゃろうかと、呪わず過ごすは難しい。

 それでも、皆間違ってはおらぬのじゃ。

 人を、周りを不幸にするのが取り柄のようなモノを、誰が好むと言うんじゃろか。
 そんな奇特なもんがいたら、吾とて驚きじゃ。

 ーー吾は貧乏神。

 人や家に憑き、貧困に導く神様。

 だがそもそも、神とはなんじゃろう。
 人より丈夫で、強くて、妖怪より位が高い。それが神じゃと言うんなら、なんと無意味なことじゃろて。
 こんな、人様の幸運を喰らって喰らって喰らい尽くしてしまうようなもんが神様なら、吾とて願い下げというものじゃ。
 誰しも望んで生まれ、望んだ生を歩むわけじゃなかろうが、それでも、こんな呪われたもんに生まれなくともよいじゃないかと、ホントの神様を呪わず過ごすは難しいことじゃったよ。

 それでも、吾は貧乏神。

 迷惑をかけないように、これでも頑張っては来たのじゃ。
 少しでも迷惑にならぬように押入れに入って過ごしておるのに、それでも家人は財を無くすし。
 ちょっとでも役に立とうと、ひっそりと家事などしてみれば、憑いたモノは病になるし。
 終いにゃ忌み日に囲炉裏で火をたかれ、暑くて暑くて堪らんと逃げ出せば、しめたと皆がそれをし始めて住み着けん。

 嫌われ嫌われ、過ごしてきた神生(じんせい)じゃった。

「好かれてみたいのぅ……」

 そんなことを思ったところで、仕様がないのじゃが。

 しかし、住み着いた家を追い出されはや三ヶ月。
 ほとんど飲まず食わず状態で、とにかく歩いて知らぬ土地までやってきたはいいものの、さすがの吾でも空腹具合が限界じゃ。
 嫌われ者ゆえ、頼る相手もおらず。
 知らぬ土地ゆえ、何もわからん。

「なにゆえこんなとこまで歩いたし……吾よ……」

 なんかもう逃げ出したかったのじゃ。
 自棄だったのじゃ。
 反省はしている。

 食い物ぉおおおお……せめて水ぅ……と、口に出すのも億劫になるほど限界に達していたそんなとき、なんだかよい匂いが鼻を掠めたのじゃ。

「これは……魚かや? 焼いた魚の匂いがしよる!」

 どこの人ともあやかしとも知れぬが、吾にも、吾にも一匹分けてくりゃれと、吾は思わず走り出しておった。
 といっても限界ぎりぎりでふらふらと前のめりに歩いただけなのじゃが、それでも吾には精一杯のスピードだったのじゃ。

 腹が減った……もう限界じゃ……。

 こんな貧乏神に分け与えてくれる人なんぞ、そんなもんは居ないかも知れぬがそれはそれ。貧乏パワーで生気を奪ってでも吾は魚が食べたい。とても食べたい。

 末期だとかそんなことは気にするな。

 吾はとにかく魚求めてくさむらかき分けて、一応忍び足でそろりと覗いたのじゃが。
魚の匂いが漂う先、目の前のちょっと開けたところにおったのは、まことに綺麗な、本当に綺麗な、あやかしだったのじゃ。









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -