暖かい手


「縁くーん、ちょっとはこっちで話しよーよ♪」
「料理なんて後でいいからさぁ」
「………」
「ねーってば、無視しないでよー縁君」
「すみませんね、縁の奴料理始めると俺らですら話しかけても聞いてくんねぇんすよ」

ムッとした声を出し始めたお客さんに颯さんはお客さんからは僕が見えない位置に立ち、そうフォローしてくれた。それに、料理を美味しく食べてくれた方が縁の気引けるかも知れませんよ。と商売心も忘れてないところがすごい。
実際料理をしてる時は聞こえてはいるけど返事をする余裕なんて僕にはない。たとえ余裕があったとしても口下手だから何を喋っていいか分からない。

店が終わって片づけをしている時颯君にお礼を言うため駆け寄る。

「ん?縁、どうした?」
「あの…ありがと…」
「…あ、あー、客のな、気にすんな。縁は作るのに専念してくれていいからよ」

うちは料理の方が人気があるからと大きな手で頭をクシャリと撫でられた。颯さんは店に入ってからの知り合いだけど言葉少ない僕を判ってくれてフォローしてくれる。優しい。


「あ…おはよう…颯さん…」
「おはよーいつも早いなー縁は。ん?それ見たことねぇ料理だな、新メニューか?」
「ん…試食する?」
「試食なら猫の方が正確だから俺はいい…上にいるかもな。連絡してみるか?」
「…ううん…行ってみたい。僕だけまだだから…」

僕だけ忙しかったせいもあるけどまだ上のコミュに行った事がなかった。お皿にラップをかけ厨房を出る。転ぶんじゃねぇぞって颯さん…僕子供じゃないんだけど…。でもその気遣いが嬉しかったりする。


いざ来てみたものの緊張する。いなかったらどうしよう…。入り口でウロウロしていると中からドアが開けられてビックリして固まってしまった。

「驚かせてしまいましたか…すみません。良かったら中どうぞ」
「…えと…はい…」
「ん、ソイツ誰だ?」
「外でウロウロされていたのでうちに御用のある方かと思いまして…」
「あ!、の…僕、下で働いてて…猫さんは…」

不思議そうに会話をする二人に、僕は初めてだったんだと思って勇気を出して声をあげてみた。一瞬キョトンとされたが大きい方の人が困ったなぁと苦笑する。

「碧、今出掛けてていつ帰ってくるか判んねぇんだわ。一応連絡してみるな」

そういうと奥に入って行った。そして僕はソファーに誘導され、いつの間に準備したのか、もう一人の人が僕に紅茶を出してくれた。

「少々お待ちくださいね。お料理…という事は下で調理をされている方ですか?」
「そう、です。…試食頼もうかと…あの僕…」

「縁、碧が直接話してぇって」

僕まだ名前言ってないのに…携帯を持った人が僕の名前を呼んだ。それだけで何故かドキッとしてしまった。
携帯を受け取ると猫さんはすぐには帰れないという事と試食は『蒼』という人に頼めと言って早々に電話を切った。蒼君って誰?

「あの…蒼君に…試食…」
「あ、オレ?試食…へぇ美味そう、いいぜ♪」
「蒼さんはご自分でもお料理されますしお上手なんですよ。あ、私は叶と言います。よろしくお願いしますね」

そうか、彼が蒼君だったのか。猫さんが頼めっていうくらいだから信頼できる人なんだろうとは思ったけど料理するからなんだ。
そして叶…という名前に聞き覚えがあった。確か澤君が…。丁寧な言葉遣いで澤君とは正反対。だからこそ惹かれたのかも知れないと思った。挨拶をして、良かったら…と叶君にも試食してもらう事にした。


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