スイートホワイトメイト2



おおむね予想通りの展開だ。叶がこれほど早い段階で参戦するとは思わなかったが、いずれ引きずり込まれる運命に変わりはない。
嵐は片隅のベンチに腰を下ろし、一連の光景を眺めていた。
雪合戦如きに巻き込まれる気は毛頭ない。話にも加わらず、早々に猫から距離を取ったのも勿論雪遊びから逃れるためだ。
目論見は見事成功したといってよかった。雪合戦に夢中になっている他のメンバーたちは、嵐がひとり悠々と事態を眺めていることなど気付いてもいない。
馬鹿どもめ、と溜息をつきながら、鼻をすする。さすがに動かず外にいるのは寒い。
元々が薄着の嵐である。雪がちらつくほどの気温は少しばかりつらいようだ。
さっさと帰ってしまうかどうか思案しつつ二の腕をさすっていると、ふわりとしたものが首に触れた。
「何だ?!」
「あ……」
思わず柔らかな何かを振り払って、嵐はぎくりとした。鋭い目で睨みつけた先には、目を丸く見開いた凌がいたからだ。
凌の手には長いマフラーがある。先週だったか、猫が買ってやったと言っていた、白いふわふわのものだ。
先程首筋に触れたのはこれだったに違いない。悟った瞬間、凌の顔が曇る。
「あ……ごめん……」
「いきなり近寄られれば誰だって驚く。……それで、何だ」
「……嵐、寒そうだったから」
合点がいった。猫たちは雪合戦に熱中している、嵐は一人離れてそれを見物していて何だか寒そうだ。そう思って凌はこのマフラーを掛けようとした。
成程自然な流れだ。だがそうすると、最初の反応は間違っていたことになる。
案の定、力なくマフラーを握ったまま、凌の表情はどんどん沈んだものになっていくではないか。
「ごめん……俺、声かければよかった」
「分かっているならそうしろ」
「……ごめん、嵐」
まずった、と思ってはいても顔に出さない嵐である。言葉にも表れないとなれば、なおさら凌は項垂れていく。
気まずい沈黙が2秒、3秒と続き、嵐は短く舌打ちした。
「……凌、俺は寒い」
「え?」
「お前は何のためにそれを持って来たんだ?」
「……嵐が寒そうだと思って、これなら暖かいから」
「だったら早くしろ。俺を凍えさせる気か?」
ぽかんと口を半開きにした凌は、しばらく目をぱちぱちさせ、そして小さく笑った。
「……うん。はい、嵐」
差し出されたマフラーを受け取り、ぐるりと首に巻く。柔らかな温かさに、嵐はまた鼻をすすった。
吐く息は変わらず白い。雪合戦はいよいよ白熱しているようで、4人とも全身雪まみれだ。
ふふ、と吐息のような笑い声を洩らして、凌が嵐の隣に腰を下ろす。驚いて目を丸くすると、小首を傾げられてしまった。
「……何だ?」
「いや……あっちに行かないのか、と思ってな」
「寒いのは苦手なんだ……それに、見てる方が楽しい」
掠れそうな声で言った凌の頬は、寒さで真っ赤だった。見れば指先が小刻みに震えている。
寒さに弱いという割に、防寒具はピーコートだけ。帽子も手袋もしていない。
そこではたと気がついた。今、嵐が首に巻いているマフラーは、ここまで凌が着けてきたものに違いない。それを差し出したものだから、今度は凌がやたらと寒そうに見えるのだ。
常日頃からメンバーに偉そうだの俺様だのと言われている嵐だが、この場面でマフラーを奪い取るほど鬼ではない。
かといって手放してしまえば自分が寒くなる。
とすれば、選ぶべき道は一つ。
舌打ちをひとつして、嵐は隣に座る凌の頭を片手で引き寄せた。
「う、わ?」
「もう少し詰めろ、寒い」
「え……え?」
きょとんとしたままの凌に構わず、マフラーの片方を引っ張る。やたらと長いマフラーなど嵐は鬱陶しいと思っているが、評価を改めることにした。なかなか便利なものだ。
長く伸びた右端を凌の首に巻いてやる。そうして指一本分の距離まで互いの間を詰めれば、完璧だった。
「これなら寒くないだろう」
真っ白いマフラーは、嵐と凌の二人を繋いでも十分なほど長い。しかも触れるくらい近付いたことで、体の片側は冷気を避けることができる。
胸を張る嵐を、凌は目を丸くして見上げていた。そして、マフラーと自分の首と嵐の顔をゆっくり見比べ、真っ白な息を吐いた。
「……寒くない。ありがとう、嵐」
「俺の考えに間違いはないからな」
「うん」
普段ならば入るであろう突っ込みもなく、凌が嬉しそうに頷くだけだ。なぜか気恥ずかしくなって、嵐は視線を空に移す。
灰色の空からは絶えることなく雪が舞い落ちてくる。雨のように音もなく、ただ静かに積もっていく。
白いマフラーはふわふわと心地よく、右側の体温は温かい。
雪合戦の喧騒など忘れかけた、その瞬間だった。
「嵐! お前、なに和んでんだよー!」
猫の大声と共に飛んできたのは、特大の雪玉だった。
そして猫は尊とは違い、コントロールは抜群で。
どしゃっ。
「あ」
「あ、嵐……!」
猫の放った特大雪玉は鈍い音を立てて、嵐の顔面で崩れた。凌が巻き込まれなかったのは奇跡か、それとも猫の狙いどおりなのか。
しん、と辺りが静まり返る。蒼と叶は既に退避を始めている。
ぼろりぼろりと雪の塊が落ち、表れたのは、鬼の形相だった。
「猫……貴様、どうなるか分かってるんだろうなあ?!」
「うわ」
吠えて勢いよく立ちあがる。そうすると右側からずるりと滑る音がした。
マフラーで繋がった凌が引きずられ、ベンチから落ちるのが見えた。沸騰した怒りが瞬時におさまる。悪いのは猫で、凌ではないのだ。
転んでしまう前に腕を掴み、どうにか体勢を整させる。凌がほっと息を吐いたのを見て、嵐は自分の首からマフラーを外した。
「……よし、凌。共同戦線を組むぞ。猫を潰す」
「え?! ちょ、嵐、卑怯だぞ!」
「やかましい! この俺に雪玉なんぞぶつけやがって……許さん!」
「し、凌! 助けて!」
猫が助けを求めるように手を伸ばす。嵐は既に雪玉を固め始めていた。
マフラーを巻きなおした凌は首を傾げて、猫と、それからこめかみに血管を浮かべた嵐をと見比べた。
「……猫、ごめん。俺、今日は嵐の味方だ」
「えええええええっ?!」
「聞いての通りだ、猫。覚悟するんだな!」
「ちょ、待て嵐、ホントごめんなさい……!」
「問答無用!」
これでもかというほど固められた雪玉を嵐が振りかぶる。猫がじりじりと後ずさる。凌が楽しそうに雪玉を作り、蒼と叶は早々と戦線を離脱した。一人逃げ遅れた尊は、顔を引きつらせるしかない。
雪合戦の第2ラウンドは、まだ始まったばかりだった。

end.

ちょうど雪が降ったのでそんな話に仕上がっています。
そして私の趣味に走りすぎたことは分かっています<反省しろ
嵐さんが好きすぎて捏造度合いがひどいです。本当にごめんなさい。
無口クールってどう書けばいいの?とか悩んだことは秘密です<基本事項
すごく楽しかったです…!

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メリー.netのリフ様よりの戴き物です♪
前後コメント割愛させていただきました。
私が書くとエロでドSでしかない嵐が優しい…vv
嵐と仲良しな凌もかわゆいですvvv
しっかりうちの子達の特徴捉えて書いていただけてます♪
ありがとうございました!!
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