スイートホワイトメイト1



この日は朝から寒かった。灰色の空からはちらちらと白い雪が舞い降りている。
そのせいか、公園内に人の影はまったくない。元からあまり賑やかなところではないから、当り前と言えば当たり前だ。
白い息を吐いて、叶が手のひらをこすり合わせた。
「さすがに、雪が降ると寒いですね」
「寒いときは運動だろ? 覚悟しろよー」
「ちょ、待てよ猫、チーム分けとか……!」
「食らえー!」
どうせこうなるのだろうと予想はついていた。が、あまりにも早すぎはしないだろうか。
いつの間に作ったのか、猫の手から白い雪玉が飛ぶ。もちろん体勢など整えていなかった蒼の頭に、それは命中して崩れた。
「っつめてー!」
「はは、ばーか」
「こっの……! 見てろよ!」
「おっ、やるか?」
真っ先に火がついたのは、当然のことながら、猫と蒼だった。
奇襲を受けた蒼は雪をはたき落とすのも忘れ、即座に雪玉を固めにかかる。もちろん猫も応戦するつもりで、にやりと笑みを浮かべながらしゃがみこんだ。
お互い牽制しながら、雪玉だけはせっせと作り続けている。ひとたびどちらかが一球を放てば、仁義なき雪合戦の火蓋が切って落とされるに違いない。
しかもそれは間違いなく、周囲を全力で巻き込むだろう。
そんなことは分かり切っている。とるべき行動はただ一つだ。
「やめなよ、ガキっぽい」
だがそのあたりの空気を読まないのはさすが尊というべきか。
溜息をついてそんなことを言えば、臨戦態勢の二人が狙いを定めるに決まっている。
にやり、と歯を見せて笑う猫の顔は、物凄く獰猛だった。
「……みーこーとー、高みの見物ったってそうはいかねーぞー」
「は? 何言ってんの馬鹿じゃな」
おそらく「馬鹿じゃないの」とでも続ける予定だったのだろう。だがそれは、猫が力一杯投げつけた雪玉によって遮られることになる。
柔らかい雪の塊は見事、尊の顔面に命中し、「ぶほっ」と妙な音を立てた。
「よっしゃあ、命中!」
「ッ……何すんの!」
「よし尊、俺と組むぞ! 猫を倒せー!」
どさくさに紛れて蒼が尊を引き入れる。額に残った雪を払って、尊が力強く猫を睨みつけた。
戦意を剥き出しにした蒼と尊に向き合って、さすがの猫も怯む。このままでは雪玉の数でも勢いでも不利だ。
「はあ?! ちょ、お前ら卑怯! 2対1は卑怯!!」
「うるせー、雪合戦に仁義はねぇんだよ!」
早速蒼と尊の猛攻が始まった。雪玉が猫目掛けて一斉に放たれる。
だが、そこでも尊はさすがだった。
猫を狙ったはずの雪玉は、何を思ったか大きく左に逸れて、一同から距離を置いて微笑していたはずの叶を直撃したのだ。
「あ!」
「か、叶サン……」
「……皆さん元気で良いことですね」
静かな、それはそれは静かな叶の声だった。
眼鏡をゆっくりと外し、雪を払ってまたゆっくりとかけ直す。その間、空気はまるで氷河期のように冷たく、動くものは誰もいなかった。
「私も混ぜてください、猫さん」
「は、はいどうぞ!」
その5秒後。
仁義なき雪合戦はただの遊びではなく、全力の戦争へと発展していたのである。

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