過去編・凌2




俺にはこの黒猫がいてくれたら何もいらない。
中学生になっても俺の周りは相変わらずで俺の友達は大きくなった黒猫だけだった。


ある日学校で授業を受けていると声ではない声が聞こえた。

――…グ …ケテ …ノグ…!!――

俺にはそれが家にいるはずの黒猫の声とすぐわかった。
授業中にも関わらず、俺は立ち上がり制止する教師を跳ね除け家へ向かって走り出した。


家まで全速力で走り、息を切らして家のノブをひねろうとした瞬間、ドアは中から開き、家政婦が出てきた。

「きゃ、凌さん…学校はどうしたんですか?」

その手には黒猫の寝床となっていたダンボールが抱えられていた。
嫌な感じがした…。あれだけ助けを求める声が聞こえていたのに今は全く聞えない…。

「…何で…それ…」
「凌、アンタ部屋で猫飼ってたわね。家が臭くてしょうがないと思ってたのよね」

家政婦の後ろから母親の声がする。ドクンと胸が大きく鳴った。

「…その子…どう…する…の?」
「どうするって…処分するに決まってるじゃない。もう死んでるんだし」

目の前が真っ暗になった気がした。

「…どうしてっ!!…どうしてその子…死んじゃったのっ…僕に助けてって声…聞こえたよっ!!」
「そんな声聞こえる訳ないでしょっ!!何よアンタ普段喋らないくせにっ…!」
「聞えるんだもんっ…僕とその子…喋れるんだもんっ!!…嘘じゃないもんっ!!」
「…っ!き、気持ち悪い事言わないで頂戴っ!!こんな子が私の子だなんて信じられないわ…こんな気持ちの悪い子だったら…アンタなんか産まなきゃ良かったっ!!」


母親の言葉に慣れていたはずの俺の心は黒猫を失った事と重なり、壊れてしまった俺はこの日を境に言葉を失った。


そんな俺なのに親の見栄か高校へと進学させられた。普通の学校ではなく母の母校でもある仕事を持つ奴らが集まる特別な学校へ。ここならいくら休んでも目立つ事はない。喋る事の出来ない俺は親から連絡が行っていたのだろう、授業でも教師から当てられることはなかった。
不思議がったクラスメイトから話掛けられても答えることが出来ず、小中学校の頃より更に孤立していた。

そんな状態で学校にもそんなに顔を出す事もせず、公園でベンチに座りぼーっとしている事が増えた。
何もする気が起きない。何故自分はここにいるんだろう…。


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