過去編・凌1




『アンタなんか産まなきゃ良かったっ…』
その言葉が今も俺の心から離れない―――


俺は子供の頃から口数が少なく感情の起伏も薄かった。
うちは母親はモデル、父親は会社社長と共に仕事を持ち、俺の世話は家政婦に任せるような家だった。
だからなのかそれとも元々そういう奴だったのか…今でも判らない。

『凌ちゃんは可愛いけどおとなし過ぎるわね』

それが俺に対する大人の感想。
母親はそれが不満だったようだが、俺にはどうすればいいのかわからなかった。
だって俺の周りの大人は俺に笑いかける事はなかったから。


小学生になっても俺の口数が増えることはなかった。
女の子達からは無口でカッコイイと不思議な事を言われた。
男には気取るなだのすかしてんじゃねぇだの言われたがそんな気はまるでなかった。
しかし争うのも嫌だったから放っておいたらいつの間にか俺の周りには誰もいなくなっていた。

普段から一人でいる俺でもやはり昼休みに大勢の人がいる中で一人は寂しい。だから人の来ない学校の裏庭によく行くようになった。
そこで一人でぼーっと空を眺めたり木々が揺れるのを見るのが俺の昼休み。
いつもどおり芝生に寝転がり、空を眺めていると小さな声が聞こえてきた。
見渡しても近くに人の姿は見えない。側にいたのは黒い猫だけだった。

「…なんだ?今の声…」
――ボクノコトバ ワカルノ?――

今度ははっきりと聴こえた、側にいる猫から。
猫は首をかしげて俺を見ていた。
こんな事ありえないそう思いつつも猫に問いかけてみる。

「…い、今喋ったの…お前?」
―ソウダヨ ワカルンダネ――


俺はその黒猫を自分の家に連れて帰ってこっそり飼う事にした。
両親には内緒にしたのはいい顔をする筈がないと判っていたから。
餌は家政婦が帰った後こっそり冷蔵庫を開け牛乳をあげたり、少ない小遣いでパンを買ったりしていた。その黒猫が俺にとって最初の友達。

小さな友達が出来た事で俺は学校で一人でも寂しくなかった。むしろ学校へ行くよりも猫と遊んでいたいと思ったくらいだ。
そんな毎日を送っていた俺にそこはさすが親とでも言うのだろうか、何かを薄々感じ取っていたのかも知れない。

「凌、アナタ最近何かあった?」

俺は猫を内緒で飼っている事を知られてはマズイと思い、必死で首を横に振った。
そんな俺を見て母親は嫌な物でも見るような目で

「相変わらず気持ち悪い子ね、喋りもしない…」

母親のキツイ言葉に慣れてはいたが久しぶりに聞くとやはり心が軋んだ。

部屋に戻ると寝床にしているダンボールから黒猫が顔を出した。

――シノグ カナシソウ ツライコトアッタ?――
「…大丈夫…何もないよ…心配してくれてありがとう…」

黒猫は俺がそう言っても心配そうな顔で俺の顔をペロペロと舐めた。


next →
back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -