向上心
休日昼下がり、のんびりとした時間をコミュルームで過ごしている蒼。そこに本を抱えた叶が奥の部屋から出てきた。
「あ、蒼さん、いらしてたんですね」
「おぅ、今他コミュの奴らが帰ったところだ。んで、その本なんだ?」
「あぁ…一人で接客ありがとうございます。この本は…」
話をしていた叶がふとその言葉を止め考え込む。そして暫くすると蒼に真剣な目を向けた。
「蒼さん、私にお料理教えてください!!」
「な、何だぁ?急に;」
「蒼さんは先日絵がお上手な事も知りましたし、猫さんにたまにお料理作って試食してもらっているとも聞きました。どうしてそんなに手先が器用なのですか?」
「そんな事急に聞かれてもなぁ…。昔っから物作ったり考えたりすんのが好きだったからじゃねぇか?絵はまぁオレ美大生だし…」
叶の抱えていた本は料理の本だった。しかしそんな事よりも美大生と聞いた叶は驚きを隠せなかった。
普段猫と一緒に馬鹿な事をしている蒼がまさかそんな専門的な大学に行っているとは思っても見なかった。
「蒼さん先の事考えてらっしゃるんですね…」
「ん?別にそういうんじゃねぇけどよ…。叶は何でそんなに料理上手くなりてぇんだ?よく他コミュでも料理習ってるよな」
「何故…と聞かれても…そうですね…」
自分はお茶が好きでトーカドーでたまに開催される世界の茶葉フェスタは必ず覗く。しかしお茶を淹れるのは料理ではない。
では何故料理に感心が向いたのか…。叶はある過去の出来事が頭にふと浮かんだ。
「…以前猫さんに夕方お腹が空いたと言われたので、簡単なピラフを作ったんです。それを凄く褒めていただいて…
うちのコミュにはそういう料理でもてなすような人もいなかったので私はそれになれたらと…」
「へぇ…確かにうちは茶菓子は買ってきたモンだからなぁ。手作りだと喜んでくれる人も多いが、オレも趣味程度にしか作んねぇしなぁ…
よっしゃ!叶が上手い茶菓子作れるようになるようオレも協力してやる。茶にあうモン考えるんなら叶が一番最適だモンな♪」
そういうと叶の頭をガシガシと撫で回す。どうやら本人は可愛がっているつもりのようだが結構力が強いので痛かったりもする。
しかし、協力してくれるという相手に向かって文句を言うのも違う気がしたので黙って撫でられることにした叶だった。
end.
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