novel | ナノ
→学ベビ
・友人帳(原作設定なので夏目と北本は別クラスになっています)
人と違うというのはそれだけで軽蔑の対象となる。
世間のその点においての基準とはひどく曖昧で、同時にひどく簡単だ。
だから少女はとても仲の良い友人という存在はいなかったが、人付き合いは苦手ではなかった。
友人がいないことを寂しいと思ったことは、この短い生の中ではまだ一度もない。
話し相手に事欠くことはなかったのだから。
「「夏目様ーっ!!」」
「うわっ!!ツルツルと牛!何やってんだ家の前で…。最近はあまり来ることはなかったのに」
夏目貴志は辺りを気にしながら、目の前の珍妙な一つ目の奴と牛の姿というおよそ人間らしくない生物へと声をかけた。
人目を気にしているのにはもちろん理由がある。
それは人間らしくないこの生物が、本当に人間ではないから。
彼らは恐らくこの世界における“妖怪”と呼ばれるものの類。
普通の人間には妖は見えない。だが彼にはそれを見、触れる力がある。
もちろん一般人には夏目と妖怪が話している映像など、不可思議なものでしかないから、他人に見られるわけにはいかないのだ。
早く早くとせがむこの妖怪達を宥めつつ、夏目はもしかしてまた何か厄介事を持ち込まれるのだろうかと不安に思い、静かに彼らをお世話になっている藤原家へと招き入れたのだった。
「…で?今度は一体何があったんだ?」
あまり物が置かれていない殺風景な部屋の中で、夏目は畳にゆっくりと腰掛ける。横ではニャンコ先生が「また厄介事を持ち込みおって」と怒っているがとりあえずは無視した。
「はい…それが…今日夏目様に会いにあの学校とやらに行った所…」
また勝手に学校に来たことには呆れを覚えたが、いつになく真剣な二人の様子に、夏目の体も自然と強張る。
「なんと夏目様のように我々の姿を見ることのできる女がいたのです!」
「な…!?」
ツルツルの言葉に、思わず口からは声がもれる。あまりにも衝撃的なことを聞かされて、時が止まったような感覚までした。
自分と同じように妖を見ることができる者など知らない。田沼という友人がいるが彼は見えるのではなく、妖怪の気配を感じ取ることができるだけ。
妖と関わりのある人間などそれくらいしか知らないというのに。
「実際言葉を交わしたわけではないのですが…我らが校門なる場所でいつものように夏目様の名をお呼びしていた時に、その女は確かに我らの方をしかと見たのです!“楽しそうだね”などと言葉まで発して!!」
興奮しながらまくし立てるツルツルの様子を見ても、やはり言葉が出てこない。
本当に見えていてその子は二人に話しかけたのだろうか。
そもそも、自分以外に妖を見ることができる者など、あの学校にいるのだろうか。
驚きなのか、疑惑なのか、よくわからない感情が胸の中を満たす。わからなかったけれど、嫌な感情ではない。
「その者の顔は私めが覚えています。夏目様!会いに行きましょう!!」
「おいこら中級!用心棒の私を無視して勝手なことはさせんぞ!!」
「いやいや斑様!ここは会っておくべきです。今後の為にも是非!」
「今後の為とは何だ!夏目、こんなのにつき合うなよ?スルーだスルー」
広がっていく喧騒の中で、夏目は一人俯く。何もないその床をジッと見つめながら、それでも表情はどことなく嬉しさに似た色が塗り込められていた。
「…会ってみたいな…その子に」
やがて紡がれた言葉は一瞬部屋の喧騒を打ち破る。
だが次には諦めたような、こうなることがわかっていたとでてもいうようなため息がニャンコ先生からこぼれた。
「初めてなんだ。見える人間に会えるのは…会ってみたい」
どうやって話を切り出すのかも
会って何を話すのかも何もわからない。
それでも気になった。同じ視点で暮らしてきたであろうその子に。
同じような価値観ではないかもしれない。だけどどこかではきっと交わるはずだから。
だから夏目は会ってみたいと
そう思ったのだ。
(それは単純だと、言えますか?)
花香る季節
最初は友人帳が第一候補でした。なのに何故かボツに。夢主は言霊使えるだとか色々考えてたのに…
・神様(瞬←夢主←天谷みたいな感じで作ろうとしてました)
「あ…あのっ、瞬君!」
突如現れた“かみまろ”という変な奴に、衝撃的な宣告をされ、だるまや招き猫・こけし・小便小僧・運全てを乗り越えて生き残った高校生達が皆悲壮感や怒り、絶望を露わにしながらその場から去っていく中、少女は同じ死線をかいくぐった高畑瞬にそう声をかけた。
「ん?何?」
「あ…えっと…その…」
引き留めておいてこちらが言葉に詰まってしまう。いや、本当は言葉を続けられないほど、今は恐怖が体を支配しているのかもしれない。
体は震え、それを悟られまいと必死に抑えようとすればするほど手には力がこもっていく。もう手中のゼッケンはくしゃくしゃになっていた。
「大丈夫か?」
不意に肩に手がおかれる。びくりと体を揺らしながら小さく頷いても、体の方は素直で。彼に触れられた瞬間に、せき止めていたものが崩れるように震えてしまう。
「瞬君は…“運動会”…参加するんだよね?」
答えなんかわかりきっていたのにあえて聞いたのは、きっと瞬の返答を己の覚悟へと繋げようとしたからなのだろう。
彼が命を懸けて挑むというのなら、それに自分がついていかない理由はない。
恐怖なんていくらでもわき上がってくるが、ただ彼女はどんな理由でもいいから瞬の傍にいたかった。
「俺は行くよ」
ほら、やっぱり。絶対に彼は行くのだ。それが死への道だとわかっていながら。
だが行かなければ何かしらのペナルティはある。どちらにせよ、道など一つしか存在しない。
「私も…行くから。死んじゃう時まで瞬君と一緒に…」
最後の一言は、果たして彼にどう聞こえただろう。届かないと知っていて尚こんなことを言うのはきっと、心の底ではまだ諦めてはいないという証明だ。
やがて瞬は少女から手を離し、快活に笑ってみせた。
「お前は死なせない!死なせないよ」
脳に直接響くような言葉。嬉しいはずのその言葉は、少女にとっては胸を抉るものでしかなくて。
「もう…しょうこちゃんの時みたいな想いはしたくないんだ」
瞬の行動の根底にはきっとこれからはずっとしょうこの存在がある。
死して尚彼の心を繋ぎとめることができるというのは、少女にとっては純粋に羨ましいことだった。
「ありがとう、瞬君。引き留めちゃってごめん。それじゃあ…またね」
もう限界だった。涙を抑えることなんてできやしない。
袖口で乱暴に涙を拭いながら瞬に背を向けて歩き出す。
どうして、どうしてしょうこは死んでしまったのだろう。彼女だったから、潔く諦めだってついていたというのに。
運なんて、自分の方が悪いに決まっているではないか。こんなに不幸が重なった今の自分の姿を見て、不運でないなど言い切れる人間などどこにいる。
「おい」
不意に聞こえた声にあげれば、そこには同じく生き残りの天谷武の姿。
「…瞬のことか」
それが涙のわけを聞いているのだと気づくのに数秒かかる。
彼は少女が瞬を好きなことは知っていた。いつもは物騒なことばかりしたがるし、人をからかってばかりだが、こういう時ばかりはいつも真面目な顔になるのだ。
「あはは…何かもう…わけわかんなくて。諦めてるっ…つもりなのにねっ…!」
涙、涙、涙。彼女が瞬のことに関わるとそればかり。
天谷はそんな彼女を無表情で見つめている。いや、見つめていることしかできなかった。
やがて泣きじゃくる彼女へと手を伸ばしかけて、やめる。
自分は加減を知らない。
彼女の頭を優しく撫でてやることもできないし
慰めの言葉を思いつくことすらできない。
だってきっと今の己からは彼女を更に困らせる言葉しか
出てきそうにないのだから
(あいつなんかやめて、とそう言えたならどれほど)
刹那に溶けた
一体自分は原作のどの話から長編を作るつもりだったのか。一度原作沿いで作ろうとしたのですがなかなかに一人足すと矛盾が生まれてしまったのでやむなく断念。仮の一話もボツ扱い。だが諦めてはいない。