静かにカップを机の上に置く
そうすれば彼は物言わず静かにカップを手に取る
そこまでにありがとうの言葉はない
もう慣れたし、そんな言葉が欲しいからこんなことをしているわけじゃないのだけれど
「私も何か読もうかな…」
適当に本棚から小説を抜き取る
純愛小説のようで、私は思わずくすりと笑ってしまった
「…おい」
気が散ってしまったのだろうかと慌てて十神君の方を見れば、彼は私を見もせずに淡々と喋り出す。
「お前、昨日苗木の部屋で何をしていた」
「え…?あぁ、ちょっと世間話をね」
「夜時間になるまでずっとか」
「うん、話してたら長くなっちゃって」
彼の鋭い瞳が私を射抜く
一瞬でわかった
あぁ、彼は今怒っているんだ、と
「…ごめん」
「謝るな。不愉快だ」
「えっと…ちょっとだけ補足するとね」
「補足?俺は言い訳など求めていない。長時間に渡って男の部屋にいたんだ、それだけで十分な裏切り行為。所詮はお前も愚民と変わらなかったというわけだろう」
「待って待って!違うんだって!苗木君にはノロケを聞いてもらってただけだよ!」
「ノロケ…?」
「そう、私と十神君との。こういうことずっと聞いててくれるのって苗木君くらいしかいなかったから、さ」
あからさまにため息をつかれた…
こんな理由で許してくれるのかなんて全然わからないけど…
「せめて食堂か玄関ホールにしろ。頭を使え」
「あ…うん」
「まったく…お前は俺の恋人なんだぞ」
「うん」
「俺の為に生きていればいい。極力目の届く範囲内にいろ」
「うん」
それきり彼は読書を再開した
不器用な嫉妬
不器用な私への想い
完璧御曹司の唯一の綻び
私はそれが愛おしい
やっぱり
純愛小説みたいな展開がやってくることは
あと何年経ったって来ないのでしょうね
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