「おーい、レイコー!!」
「あら、ミョウジじゃない」
「“あら”じゃないわよ。まーた木に登って!」
「質の悪い妖がいるものだから」
「嘘。そこには何もいない。すぐにバレるような嘘つかないでちょうだい」
「ふふ、でもさっきまでいたのは本当よ?ここに来る途中に見なかった?」
「んー…あぁ、足が三本ある一つ目の烏を一匹」
「そう、それ」
「また勝負でもしてた?けど烏なんて幾ら妖でも話せるの?」
「まぁね」
「勝負もいいけど…あんまり無茶はしすぎないでね。強いのは知ってるけど、あなただって人間なんだから」
「ふふ、変なこと言うのね。ねぇ、あなたって本当に人間なの?」
「呆れた。まだそんなこと考えてたのね。目の前にいる私は正真正銘の人間!ただ、レイコと同じで“見える”ってだけよ」
「何度聞いても信じられないんだもの。でもミョウジに触れると温かいのよね」
「当たり前だって。それに、妖がわざわざ妖にすら恐れられているレイコにこれを買ってくるかしら」
「七辻屋のお饅頭!」
「はい、食べましょ。ちょうどおやつ時だから」
「………」
「レイコ?」
「ふふ、不思議ね…何でか温かく感じるわ」
「本当に?うーん、そうねぇ…あぁそうだ。ねぇ、レイコ…」
“だったらそれを人間の、私の温かみだと思ってよ”
ミョウジは笑いながらそう言っていた
あの時の私には、この言葉に何を返したらいいかわからなくて
考えて考えて
やっと綺麗に言葉がまとまったから
明日また会った時に伝えようって、そう思っていたのに
その日の晩に彼女は亡くなった
交通事故だったらしい
信じられなかった
だから、そこらにいる小妖怪を捕まえて話を聞いてみたけれど何もわからなかった
あまりにもあっけなさすぎるわ、ミョウジ
せっかくのお気に入りだったのに
また、そうやって人間は
私を一人ぼっちにするのね
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