05
真昼の明るい光には似つかわしくない物騒な物を持った者達が乗っている車。

その中の一台を運転しているココは携帯片手に後部座席のヨナに銃を手渡した。

「これを持っておくんだ、ヨナ」

「?自分の持ってる」

「ウン。予備」

自分の物は既に準備している。今更何を考えて彼女はこれを手渡したのか意味がわからなかった。彼女から返ってきた返答もますます意味がわからない。

一応受け取ったが、先ほどココはクレアに狙撃銃を持たせてはいなかったか。もしもの時に彼女に狙撃させるつもりではなかったのか。

「クレアに狙撃させるんじゃないの?」

「いやいや、クレアのはただの保険だよ」

心底聞かなければよかったと後悔した。いよいよもって訳がわからない。

ヨナがもう考えることを放棄しようとした時、並行して走っていた武装組の車へとココは合図をした。あれは“狩れ”という合図。
ふと、ヨナの目にガラス越しにクレアの姿が入り込んでくる。

ニヤリと口角を上げて目はこの先の戦闘への期待に無慈悲に輝いている。そのくせ、どこか本当に微かだが悲しみに似た色を瞳に見てとれた。
普段の、優しく、そして柔らかく微笑む彼女からはおよそ想像などつかない。まだ知り合って日は浅いが、こと戦闘に関しての彼女は普通じゃない。何故だかはわからないが何だか無性に気になった、クレアのことが。

「ねぇ、ココ」

「お、質問!?何でも聞いて」

携帯をいじりながらもココは嬉しそうにヨナの質問を待った。

「クレアはどこかの国の軍人だったのか?」

一瞬の間。顔に張り付いた笑みこそ消えないが彼女と自分の間に生まれた間を気づかないはずもない。やはりクレアには何かあるのだろうか。

「へぇー、遂にヨナも思春期突入?でもクレアは競争率高いよー?」

「別に、そんなんじゃない」

自分でも何故彼女のことが気になったのかわからないのだ。それを聞いた所で多分何も思わないだろう。彼女に対する態度が変わるわけではない。もちろんココの言ったような思春期の可愛らしい感情をクレア相手に思っているわけでもない。けれど聞かずにはいられなかった。

ヨナの瞳をミラー越しに見て、答えを聞くまで逃がさないとでも言われているような気がしてココは苦笑混じりに口を開く。

「フフーフ。クレアはね、軍人なんかじゃないよ」

彼女の返答に正直驚いた。あそこまでの腕を持っていながら軍人ではないのだとしたら一体彼女は何だったのだ。確かに彼女は軍人という感じではないし、軍人にしては余計な技術も豊富だが。

「なら…」

「ヨナ。あまり早急すぎる男はモテないよ?」

「だから別に僕はそんなんじゃ…」

困ったような、呆れているような風に眉尻を下げるヨナをやはり楽しそうに見つめている。

「フフ、どうしても知りたかったら直接口説き落として聞くといいよ。それよりヨナ。もうすぐ着く。君は今回兵士ではなく…そうだなぁ、“弟”を演じてほしい。私が合図するまで、私に何があっても」

目標の建物まで着き、車を停車させる。そして最後にそう一言だけ言って、静かに二人は車を降りていった。












































ヨナがクレアのことについてココに質問していたのと時を同じくして、クレア達の乗っている武装組は皆が皆顔に怪しい笑みを浮かべて興奮していた。

「おぉ、スッゲェ。“狩れ”だってさ」

先ほど別れ際に言われた“狩れ”という言葉に、クレアは繋がったかのようにコクリと一つ頷く。ココの言葉の意味はそういうことだったのか。敵を片付けることが則ちそういうこと。終わったら向こうの商売敵に照準を合わせる。まだ“保険”の意味はいまいち理解してはいないがこれで大体自分のすべきことはわかった。

「久々の、狩りじゃ」

「狩りじゃー」

「狩りだねー」

「俺らのボスはトキドキカゲキだぜ」


不気味に笑う皆。
と、目の前に近づいてくる高層の建物。目標はあの中にいる。クレアはこれからの戦いに思いを馳せた。どんな奴らだろうかとか、使っている武器はどんなだろうかとか。

彼女はどこか戦いを遊びのように扱う所がある。それは昔から染み着いている癖のようなものだからどうしようもないと彼女は笑っていつも説明しているが、彼女自身そんな自分が嫌いだった。内心そんなことを思っている人が世界平和を望んでいるなど、笑い話にしかならないから。

けれど、この手に握る銃を手放すことができないのもまた、事実だった。こうして考えると自分とヨナはどこか似ているのかもしれない。

「クレア、行くぞ」

「え…あ、あぁ…うん」

ぼーっとしていたのか、到着したのに気づいていなかったようだ。次々と車を降りていく皆の姿を慌てて追いかける。
ガチャガチャとなる兵器の音が、今は珍しく鬱陶しく感じた。



そして、レームとルツの後ろをついていく。ウゴとマオは別の部屋の担当。クレア達の目的の部屋はもう目の前だが、念の為辺りを見回す。恐らく敵はスナイパーと少数の用心棒か普通の兵士かだろう。

レームはバルメがいないため、ここぞとばかりに煙草を吸いながら、クレアに視線を寄越す。

「クレア、お前はどう見る?」

頭を使う戦闘が得意ではないらしく、このようなメンバーで行動する時、彼は決まって彼女の意見を聞くのだ。彼の中でもある程度纏まってはいるのだろうが、それにはクレアの意見での裏付けが必要らしい。

クレアは軽く首を傾げて唸った後、静かにドアの前に立つ。トラップ等仕掛けられてる気配はなかったので、堂々と。

「うん。やっぱりここは小細工なしの正面突破じゃないかな?」

明らかに言い方は疑問形だったにも関わらず、言葉と共に鳴り響く轟音。それは彼女愛用の銃が火を吹いた音でも、他の誰かが撃った音でもなく、クレアの足が思いきり部屋のドアをぶち破った音だった。比較的強固なはずだったそのドアは無惨にも部屋の奥へと吹っ飛ばされる。

レームはそれを面白そうに、そしてルツは苦笑しながら眺めていた。向こうでウゴ達も呆れた表情を浮かべている。一体あの細い腕や足にどんな力があるのだろう。
クレアはそれを気にせずに焦燥感を露わにしながら自分達の存在に驚いている部屋の中の男達。

時間をかけてもいられない。彼らが焦っている今がチャンスだ。クレアは素早くスナイパーの横に佇む男に近寄り、にこりと微笑んだ。

「どうもです、こんにちは。ドア壊しちゃってごめんなさい」

「な…?…う…うわぁぁ!!」

まるで日常会話を楽しむかの如く話しかけてきた彼女に一瞬緊張を解きかけた男だったが、間髪入れずに撃ち込まれたライフルによって、壁に大量の血を浴びせかけながらその場に崩れ落ちた。

「このッ…くそ女ッ…!!」

スナイパーが即座に彼女に銃口を向ける。だがそれは完全にクレアを捉える前に彼女の横を綺麗に通って飛んできた二発の弾丸によって遮られた。同じようにスナイパーも反撃すらできずに床に転がる。

「ったく…誰に銃口向けてんだっつの」

「ナイスショット!ルツ、レーム」

「ヘッヘヘ、一人でも余裕だったくせによォ」

そんな会話をしつつ転がる二人を引きずって適当に放った。こちらはこれで完了。恐らくウゴ達の方も終了していることだろう。とりあえずココに報告しなければ。
だが、その時にココから別に言われていたことを思い出す。そうだ、狩りが終わったら向こうの方に銃口を向けなければならなかった。連絡はレームに任せてクレアはいそいそと窓へと移動する。

するとぽすりと頭に大きな手が乗せられる感覚。と、思ったら次にはぐしゃぐしゃと撫でられた。

「うわわっ!ルツ!?」

ルツは彼女と目を合わせずに尚も頭を撫でている。やがてゆっくりと言葉を紡いだ。

「あー…その、あれだ。お前がすげぇのは知ってっけどさ、あんま無茶はしすぎんなよ」

それが先ほどの突入のことだと気づくのに約二秒。そして心配してくれたのだと気づくのにまた二秒。クレアは嬉しそうに笑う。

「ありがと、ルツ。わかったよ。ふふ…でもルツ達がいるんだからさ、ちょっとくらいの無茶ならいいと思いません?」

「お…おぉー、そうだなァ」

気恥ずかしくなって思わず彼女から手を放すルツ。クレアは満足そうに一層嬉しそうに笑って前に向き直った。

さっきのスナイパーが使おうとしていた銃がそのままで準備されている。なかなかいいものを使っているとなと、意識を持って行かれそうに必死に抑えてクレアは自身の狙撃銃をセットしてスコープを覗いた。


覗いた先に見える何やら激昂している男の姿と、横で大人しくしているヨナ。


そして、男の前に座るココを見つけた時に気づいた彼女の頭から流れている血。

それを見たのとほぼ同時に鳴り響く音。

ココの怪我でパニックになりかけていた所に止めをさすかのように鳴ったそれに

冷静さを失ったクレアは



その指を

とっさに引き金へと動かしていた。


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