02
「キリキリ歩けィッ!!ヨナ隊員、ほらイッチニ、イッチニ。フフ。」

ココはまだまだ幼さの残る少年の背を押す。無表情の無言で頷いて歩く。新しく入ってきた少年兵。彼からは子供特有の無邪気さが伺えない。それだけで今までにどんな経験をしてきたのか、ある程度は察しがついた。

「今までの9人の私の部下がちょうどここに集まってる。君が入ると10人だ。変な人ばっかだけど、ビビることないよ」

饒舌に、そして簡潔に己の私兵の説明をしていくココ。その口調は少しだけ急いでいるような感じがする。少年は何も言わず、ただ彼女の話に耳を傾けていた。

「初の顔合わせなのに、残念だがゆっくりはしてられない。問題が起きてね。東欧の片田舎で足止め食ってる理由なんだけどね」

少年の目の前に銃をちらつかせ、それを差し出す。これから何をするのか、言われなくても理解できた。少年はやはり無言で銃を受け取る。ココは続けて彼に言葉を紡ぐ。

「問題解決を手伝ってもらう。私の“小隊”への入隊の儀式のひとつ。そして君の性能テストでもある」

そこまで彼女が言った時、部屋の扉の前に二人の男が立っているのに少年は気付いた。色の黒い男達。彼らは軽くココに頭を下げて、それから、とても訝しげに彼女の横に佇んでいる少年をまじまじと見つめる。

「?ココさん、その子はいったい……?」

「この子?」

その質問には答えず、楽しそうに笑いながらココは扉を思い切り開け放つ。ダイレクトにレームの頭に扉が直撃したことには目もくれず、そしてずかずかと部屋へと入っていく。
部屋の中にはココの私兵達が待機していた。皆いきなり入ってきたココと、何よりその後ろにいる少年の姿に面食らっている。

「みんな注目!!彼がヨナだよ」

全員の顔が一瞬にして暗くなる。新入りが来るとは聞いていたがまさか少年兵だったとは思っていなかったのだ。皆ヨナの持つ拳銃に少なからず怯んでいる。

「ハイハイビビるな!!」

そう言ってココが軽快に手を叩いた時、再度勢い良く開く扉。さっきほどではないがやはり扉はレームの頭に直撃する。

「あ!!彼がヨナ君ですね!?わぁ、かわいい」

クレアは部屋の雰囲気などお構いなしにヨナの手を握ってぶんぶんと振った。

「私、クレアです。よろしくヨナ君」

彼からの返答はない。突然の彼女の自己紹介に戸惑っているようだった。それでもクレアは満足げに微笑んだ。

「何だよクレア、新入りがガキだって知ってたのか?」

「うん、この前ココさんに教えてもらったの」

「俺らには内緒にしててクレアには教えてたのかよ、お嬢ー」

「フフーフ、まぁいいじゃない!拗ねないでよルツ。それよりトージョ。彼にも分かるよう現状の説明!」

笑みを絶やさず、しかし真面目にココはトージョに促した。他の者達も気を引き締める。

パソコンに視線を移したまま、トージョは今起きていることの説明を始めた。

「変わらんね。我らのコンテナは足止め食らったまんま。税関の小役人どもはダダこねる一方。内務省中央税関保安隊にはココさんからお電話願います。」

「う〜ん。連中の言い値どおり関税払ってたら、今四半期の決算超赤字だよ!!最初から通す気ないんだ!」

いまいち理解できていなさそうなヨナにココはぐるりと向き合い、腰を屈める。

「要するに、私たちの持ち物を取り返すんだ。OK?」

「……そんなことはどうでもいい。必要なのは“どこで誰を撃つか”……それだけ」

淡々とヨナはそう言う。仕事、雇い主に忠実従順と言えば聞こえはいいが、その姿を見ていたクレアには彼がどこか、哀れに思えた。

ヨナの反応に一瞬間を置いたココもそうと決まればすぐ行動とばかりに再度軽快に手を叩く。

「バルメ、レーム、それとクレア、出動準備!!準備!!」

お互いの顔を見合わせながら、やれやれと三人は重い腰を上げた。
そして、バルメとレームが黙々と準備を始める中、クレアだけが「早くヨナ君が作るタマゴ料理が食べたい」と呟きながら笑っていた。







































「レーム、クレア。電話で何とかなると思います?」

「思わないね。それで終わりゃ今ごろここにはいないさ」

「そりゃあ向こうはあれを運ばせるわけにはいかないからね。軍力バランスが滅茶苦茶になるもの」

「しかし、理由は何だろうとココの邪魔をする者は私が許しません」

「ふふ、案外新入りヨナ君が全部何とかしてくれちゃうかもよ?」

「ははは、かもなぁ!!」

車の中、三人は緊張感をあまり感じさせずに会話をしている。

クレアが何とはなしにいつも使用している銃、デザートイーグルをくるくると回していると、レームは煙草片手にちらりと後部座席に視線を寄越して、二人に疑問を投げかけた。

「……で、どーよ?バルメ、クレア」

それがヨナのことだと理解したバルメは、未だ首を傾げているクレアより先に問の答えを口にする。

「あぁヨナ君のことですか?まだ一言も喋ってないのにどーよ言われても困ります。でもまぁ、気配の鋭さは尋常じゃないですね。ココが危険です!あんなやば気な少年兵と二人きりで車に乗って!」

その後に「ココに何かあったら彼をバラす」と物騒なことを言ってバルメは咳き込んですぐさまレームの煙草を止めさせた。

髪に匂いがつくだの何だのと抗議するバルメを流してレームは「クレアは?」と答えを促す。

「んー…かわいい子。あとは、もしかしたら武器嫌いなのかなぁって。間違ってても悲しいけど」

「へぇ…相変わらずクレアは鋭いねぇ」

「クレアの前では嘘つけませんね」

他人の感情の変化にクレアは人一倍敏感だった。それは負の感情も同じようにわかる。銃を手にしたヨナに何かを感じ取ったのかもしれない。

何かどうしようもなく大きな憎しみに似た感情。武器が嫌いな子供など珍しくはないが、ヨナはそれが何倍も強く感じたのだ。それでも憎しみの対象を使い続ける理由が気になった。

きっと強い子なのだろう。憎んでいてもそれを使う精神の強さ。単純に羨ましかった。いや、それしか道がないと言ってしまえばそれまでかもしれないが。だがそれはクレアが欲しがっていた強さだった。そして結局手に入れられなかった強さ。

「クレア…?」

不思議そうに話しかけてきたバルメに、クレアはハッと我に返った。

「どうした?戦闘中と同じ顔してたぜ?」

「え…どんな顔です、それ」

「いつものクレアが可愛らしいと形容するなら、戦闘中の表情は正に美しい、ですよ!!」

興奮しながら解説するバルメの言葉にクレアは頬を赤く染めながら照れ笑いを返す。

「あはは、そんなことないよ」

「いいえ!ココが一番ですがクレアもとても素敵です!」

むぎゅっと抱きしめられてクレアは変な声を思わず発した。レームは「じゃれるなじゃれるな」と言いながら笑っている。
だが次の瞬間にはサイドミラーに映った車に、途端に真面目な顔つきになった。

「来た」

クレアの言葉がまるで引き金になったかのように、前方にいたココの車両から、ヨナの銃が火を噴く。そして彼の放った玉は確実に相手を捉える。

尾行車。ずっとついてきていたのか、今追いついてきたのかは定かではないが、それはココの電話が終了したのと、代わりに戦闘が開始したのを示唆していた。
「ハジきやがった」

「やるなぁ、ヨナ君」

たった今見たヨナの姿にクレアは興味深げに瞳を輝かせる。だが、次には今の現状を思い出して、ヨナだけでも何とかできそうな気もしたが援護及び敵の排除をする為、すぐさま身を車から乗り出す。

そうしてライフルを手に一言呟いた。




「死地へようこそ。なんてね」


クレアの銃も火を噴いて

戦いの幕は開いた。


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